19年ラグビーW杯日本大会は今日20日で開幕まで2年となる。15年イングランド大会で歴史的3勝を挙げた日本は、母国開催で史上初の8強入りを目指す。アジア初開催となるビッグイベントに向け、指揮を託されたのはニュージーランド代表、日本代表としてW杯出場経験を持つジェイミー・ジョセフ・ヘッドコーチ(HC、47)。現役時代に8年間を過ごした日本への愛情、3度目のW杯への思いを聞いた。

 2019年9月20日。超満員の東京スタジアムで日本が世界を驚かす-。開幕を2年後に控え、インタビューに応じた指揮官はそんな光景を思い描いていた。

 ジョセフHC 難しいチャレンジだが、6万人、もっと言えば1億2700万人が自分たちを応援してくれる。だからこそ、我々は勝たなくてはいけない。心からワクワクしている。

 日本との運命が交差したのは25歳の時だった。準優勝した95年W杯後にニュージーランド代表「オールブラックス」としてのキャリアに終止符を打つことを決断。そんな時にオファーを受けたのが、日本の福岡・宗像市に本拠を置く西日本社会人リーグ(当時)のサニックスだった。

 ジョセフHC 最初は2、3日過ごして帰国しただけだったが、(自身のルーツの)マオリと同じ空気を感じた。年長者を敬い、家族の中では父が働き、母は父をたてる。その時の直感を信じて、日本に来た。

 196センチ、分厚い胸板に似つかわしくない、人なつっこい笑顔。異国の地になじむのに時間はかからなかった。地元ファンから愛され、足しげく通った近くの居酒屋で日本語を学んだ。

 ジョセフHC 自分がリーダーを務めていたラインアウトのサインは、ほとんどが日本食の名前だった。「ブリかま塩焼き」とか「ハマチ」とか。居酒屋のメニューばかりだったよ。

 99年には日本代表として2度目のW杯の舞台にも立った。自前の刺し身包丁で魚をさばき、趣味は週4、5回は通うサウナ。理髪店でのひげそりをこよなく愛す。8年を過ごした日本への愛情はとことん深い。

 ジョセフHC 日本の文化は素晴らしい。例えば、食事。料理1つ1つに作り手の思いが込められ、食事に連れて行くことで感謝の思いを表す。上下関係もそこにある。若い人を連れて行ったら年配者が支払う。これはマオリも同じ。日本にいる時は、自分は日本人だと思って暮らしている。

 引退後は指導者の道に進み、15年には世界最高峰リーグ、スーパーラグビーでチームを優勝に導いた。そして再び日本から声がかかった。母国開催の19年W杯を戦う代表HCのオファー。熱い思いがこみ上げた。16年9月に正式就任した。

 ジョセフHC 面倒を見てくれた国に恩返しするチャンスだと思って受けた。日本でのプレー経験、ニュージーランドでの指導経験そのすべてを生かしたい。

 ミーティングや、取材は思いが正しく伝わるよう英語で話す。だが、目指すチーム作りをたずねると、聞き取りやすい日本語を交えて語った。

 ジョセフHC 今のラグビーは、昔のようにプロップがスクラムだけやっていればいいのではなく、スクラムからすぐに出てパスして、走る。どのポジションもマルチな技術が求められる。例えれば、赤だしと天ぷらも自分で作るすし職人みたいなもの。「赤だし! 天ぷら!」と指示を出しているだけではだめ。最後は、自分で皿も洗う。そんなハードワークができる選手が集まれば、強いチームになる。

 今月15日には、日本代表候補選手を集め、1人1人に思いを伝えた。残り2年をどう過ごすのか。何が武器で、何が足りないのか。描く道筋は明確だ。

 ジョセフHC この1年でキックを多用する戦術が有効だということは分かった。課題は防御。フィットネスが間違いなく足りてない。11月に対戦するオーストラリアなどと比較すると25%は後れを取っている。何よりそこが必要だ。

 残された時間は2年。「和」の心で突き進む。【取材・構成=奥山将志、峯岸佑樹】