アメリカンフットボールの定期戦で日大選手の悪質タックルから負傷者を出した関学大は26日、反則行為を行った日大の宮川泰介選手(3年)を支援する方針を示した。24日に日大から再回答書を受け取り、鳥内秀晃監督(59)らが兵庫県内で3度目の記者会見。負傷学生の父で別途会見した奥野康俊氏(52)も、被害届の取り下げは日大首脳陣から「真相」を引き出す狙いから「ない」としたが、宮川選手へは寛大な処分を求める嘆願書を募り、刑事告訴については慎重に検討を重ねる。

 悪質な反則行為を受けた関学大が、被害学生の父とともに加害学生を「救済」する意向を前面に押し出した。鳥内監督の口からも、心温まる言葉が出た。

 「私は宮川君が真実を語っていると思っている。私としては(競技を)続けて欲しい」。宮川選手は22日の会見で、反則は内田正人前監督らの指示が背景にあったと証言。だが、翌23日には内田氏、井上奨前コーチがそれを否定。一方で両氏は、宮川選手に競技復帰を求めた。92年の監督就任から10度の大学日本一に導いた鳥内監督は、無責任にも思える内田氏らの発言に「それなら監督、コーチは、なんでそんな指導をするんや。そういう追い込み方をするんや」と、宮川選手の苦しみを思いやった。

 氏名を公表して記者会見に臨んだ宮川選手は、会見4日前の18日に家族を伴い、被害選手と、父の奥野氏らに謝罪した。同席していた関学大の小野宏ディレクターも「宮川君の話に信頼性があると考える。話をして、態度を見て、確信を持っている」と言い切った。

 奥野氏は、宮川選手の誠実さに妻が涙したことも明かした。「宮川君は、すでに社会的制裁を十分に受けている」。おおよそ被害届を出した被疑者へ向けた心境とは思えない言葉だ。

 24日に日大から届いた2度目の回答書も「1プレー目でQBをつぶせ」と指示した指導者と、宮川選手の受け取り方に相違があったとする従来通りの主張。奥野氏ら、関学大側が求める真相究明、誠意ある対応とはほど遠い。奥野氏らは、孤立が不安視される宮川選手を支援する方針を固め、小野ディレクターは「(宮川選手の)弁護士とも連絡を取っている」とし、宮川選手の支援へ協力を惜しまないと約束した。

 被害学生の父、奥野氏も異例の行動に出た。「宮川君に寛大な処分を求める嘆願書を集めたい」。21日には大阪府警池田署へ被害届を提出。被疑者には宮川選手を外せず、苦渋の決断だった。だが、以降も学生に責任を押しつけるかのような内田氏らの発言で怒りが増幅。「法にかかるほうがプレッシャーがかかると信じたい」とし、内田氏らへ圧力をかけ続けるため、刑事告訴も検討を重ねる。

 ただ、真相究明を求めるほど、皮肉にも宮川選手を追い込む。もろ刃の剣。被害届移送先の警視庁は、傷害容疑を視野に捜査を始めた。奥野氏は「被害届を出しながら、嘆願書を出すのはあり得ない話。でも、日本の法律上そうするしかない」。青年の勇気をむげにはしない。【松本航】