女子６８キロ級決勝で１６年リオデジャネイロ五輪代表で五輪後、悪性リンパ腫で闘病生活を送っていた渡利璃穏（２６＝アイシンＡＷ）が、原千晶（警視庁）を３－２で退け、優勝した。全日本選手権を制している土性沙羅（東進住建）が、棄権しているため、１０月の世界選手権代表（ハンガリー）も決まった。「率直にうれしい。決勝はやってきたことを信じてやろうと思ってリラックスしてできた」と安堵（あんど）の表情を浮かべた。

　初戦の２回戦は、約１年１０カ月ぶりの実戦で「緊張というか、全身が震えた」と話すほどだったが、決勝は落ち着きを取り戻し、冷静だった。第２ピリオド、残り約２４秒で２－２と追いつかれた。同点で終わった場合、ルール上、ラストポイントを取った方が勝利となる。ポイントをとるしかなかったが、残り８秒でタックルで相手を場外に押し出し、勝利をもぎとった。「絶対ポイントを取って世界選手権に行くと思って戦った」と振り返った。スタンドで観戦していた母さとみさんは「ここまできたことが奇跡。感動したし、誇りです」と娘の勇姿を涙でたたえた。

　まさに奇跡を起こし、マットに帰ってきた。五輪２カ月前に胸に違和感を覚えた。検査を受け腫瘍が見つかった。五輪はそのまま出場したが、五輪後の９月に細胞検査を受け、悪性リンパ腫が判明、長い闘病生活に入った。１０月から抗がん剤治療が始まったが、副作用と戦った。全身に痛みが走り、手はパンパンに腫れるなど辛い毎日。島根の実家には戻らず、医療施設が整う愛知で治療を続け、通院だったため、家に戻るとたった１人で絶望と戦った。「１人で何もできずに苦しかった」と振り返る。

　家族や周囲の人たちが支えとなった。「家族はもう１度五輪に出てメダルを取る思いを持ってくれていた。会社の人たちも応援してくれていて、絶対にマットに戻って恩返ししたいと思った」と力にし、復活につなげた。

　９月にトレーニングを再開し、レスリングができる幸せを感じている。「嫌だと思っていたことが情けない気持ちになった。今は毎日を楽しんでいる」と話す。

　１０月再び世界の舞台に返り咲く。メダルを目指した前回五輪は、初戦の２回戦で敗れている。「リオの悔しさは五輪でしか果たせない。世界選手権で優勝して東京につなげたい」と決意。どん底からはい上がり、悲願の金メダルへ再加速した。