このプログラムを見て、まずジャンプ構成が鬼のようだなと感じた。羽生結弦選手はそれぞれの大会で「優勝する」ことに加えて、プログラムに自分にしかできないことを求めているように感じる。その象徴的なジャンプが演技後半の4回転トーループ-3回転半のコンビネーションだと感じた。

個々の要素に目を向けると、羽生選手は、準備動作が少なくてもジャンプを跳べるというのが特徴で、ジャンプの前後にもいろいろな動作を入れている。ISUジャッジングシステムになってからの「ただちにジャンプを跳ぶ」という傾向を象徴している選手であると思う。

次に感じたのは、プログラム全体を見渡すと、最初の音が鳴った瞬間から曲が終わって止まる瞬間まで、目を離すスキがない。「スキ」とは、各要素から要素へ移行する際に、ターンや上半身の動きなど、「つなぎ」で妥協のないプログラムだということだ。これだけのプログラムを滑りきることは、とても体力のいることだと思う。自身にとっても思い入れのあるプログラムだけに、本人にも妥協がない。今回の世界最高得点は、まだまだ夢を見させ続けてくれる得点であったと思う。(10年バンクーバーオリンピック代表、11年世界選手権銀メダリスト)