オリンピック(五輪)4連覇の伊調馨(34=ALSOK)が、世界史上初の5連覇への挑戦を明言した。20年東京五輪の代表争いが始まる戦いに女子57キロ級で参戦。リオデジャネイロ五輪金メダリストの川井梨紗子(24=ジャパンビバレッジ)と予選リーグ初戦で激突し、国内では男女通じて史上初の金メダリスト対決に1-2で敗れた。日本選手では17年ぶり、71試合ぶりの黒星も、試合後に「五輪へ向けた本当の復帰戦として全日本があった」と述べた。2連勝で決勝に勝ち上がり、今日23日には再び川井とまみえる。

伊調がとても楽しそうだった。準決勝を勝ち上がった直後の午後5時すぎ、ウオームアップエリア。少しの休憩を挟むと、田南部コーチとスパーリングを始めた。周囲は減量調整で軽い運動をこなすなか、細かな技術確認が次第に熱を帯びた。そして、伊調は笑っていた。2年間の長期ブランクから10月の全日本オープンで復帰すると「自分でもびっくりするぐらい好き」と競技への愛を語った。楽しいのだろう。協会を通じて発表したコメントにも高揚感を感じさせた。

「五輪へ向けて本当の復帰戦として、全日本がありました。ここからが本当の勝負の時だと思います」

リオ後、明言を避けてきた5連覇の挑戦。その決意が固まった1日だった。

「金メダリスト同士の戦いとなります」。場内アナウンスが流れた午前11時、会場が一気に騒々しくなった。女子57キロ級は2つの予選リーグ組に分かれ、同組の伊調は川井と初戦で激突となった。開始から中腰で頭を突き合わせ、両手でさばき合う展開。わずか押される形で後退すると、消極的姿勢で警告を重ね、失点が続いた。終盤に川井に消極性が見られ1-2としたが、放ったタックルは残り30秒での1度。なにより日本人に敗れたのは01年の全日本選手権女子で吉田沙保里以来となったが…。

その後の準決勝までは2連勝。「気持ちも体力も技も戻ってきているのが分かりました」とひたすらに前向きだった。田南部コーチが「上出来。もっと苦戦すると思った」と言えば、中学時代の恩師、沢内和興さんは「1戦1戦思い出している。川井と1度できて、試合も重ねた」。パワーハラスメント問題などで、本格的な練習再開は今春。不安は試合勘だった。

今日23日、再び川井とまみえる。「明日の展開もしっかり作れれば、もっと勘が戻る。レスリングらしい試合ができれば」。駆け引き感が強く動きが乏しかった初戦から、「伊調馨のレスリング」へ昇華させる。【阿部健吾】

◆五輪の連覇 個人種目では4が最多。女子は伊調だけで、男子は4人。48~60年大会のヨット・フィン級でポール・エルブストロム(デンマーク)、56~68年大会の陸上円盤投げでアル・オーター(米国)、84~96年大会の陸上走り幅跳びでカール・ルイス(米国)、04~16年大会の競泳200メートル個人メドレーでマイケル・フェルプス(米国)が達成している。団体を含めると、フェンシングの男子サーブルでアラダール・ゲレビッチ(ハンガリー)が32年ロサンゼルス大会から6連覇している。