「キング」がまさかの地獄を味わった。男子個人総合予選で五輪2連覇の内村航平(30=リンガーハット)が6種目合計80・232点で37位に終わり、上位30人が進む28日の決勝進出を逃した。

加齢による両肩痛に苦しむ現状を試合で覆せず、2度の落下で初出場だった05年以来の予選落ちを喫した。世界選手権(10月、ドイツ)出場は厳しくなり、集大成となる東京五輪へも暗雲が垂れこめた。昨年覇者の谷川翔(順大)が85・566点で首位発進した。

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悟りきった表情が事態の深刻さを浮き上がらせた。演技終了後、30分ほど引きこもった控室から出てきた内村は、「練習でできないことは試合でできない。それに尽きる」と達観し、包み隠さない本音を並べた。

「次には生きない」「笑うしかない」「全てが今日で終わった感覚」。極め付きは「(東京五輪は)夢物語ですよ、今のままじゃ。何とかしたいが、何すれば良いか分からない」。

最初のゆかの連続技でのラインオーバーから始まった。感覚のズレに、厳しい末路が見えたという。「いつもと違う」。続くあん馬で落下して確信に至り、5種目目の平行棒で決定打。モリスエ(棒上後方かかえ込み2回宙返り腕支持)で左肩が爆発した。左腕をバーで打ち付けて落下し、肘下の感覚が消えた。顔をしかめる姿に会場に悲鳴が響き、再演技も悲痛だった。佐藤監督から「ちゃんとやらないなら、やめた方がいい」と強く言われ、「分からない」と返し、両手両膝を着く着地になった最後の鉄棒まで意地で貫徹したが、予選落ち。3位で10連覇が途切れた昨年大会を大きく下回った。

リオ五輪での2連覇後、一昨年は左足首、昨年は右足首を故障した。今は蓄積疲労で両肩が痛む。冬場には通し練習をミスなく完遂できる回数が激減。ただ、心がそのミスを受け入れられない。「やる気があるのにできない。意味がわからない」。現実にいらつき、解消できずに空回った。

世界選手権代表入りは厳しい。「10%もない」と自覚する。次戦候補は6月の全日本種目別選手権(群馬)だが、先は未定だ。「死ぬ気でやるしかない。しんどいことから逃げていた」「ミスしないこだわりを捨てて、泥臭く練習するしかない」。体操界の中心に居続けた男は、築いた誇りとも戦う道に踏み込むしかなくなった。【阿部健吾】