馬場馬術で初のオリンピック(五輪)出場を目指す札幌市出身の林伸伍(34=アイリッシュアラン乗馬学校)が、「馬術をメジャーに!!」を目標に掲げた。全日本選手権で3度優勝のトップライダーも、16年リオデジャネイロ五輪は代表の補欠に甘んじた。その悔しさをバネに4年間を過ごし、東京五輪ではメダル獲得で競技の知名度アップを目指す。

リベンジの思いを胸に五輪イヤーを迎えた。16年リオデジャネイロ五輪は前年の地域予選で団体出場枠獲得に貢献しながら、直前の代表選考会でパートナーである主戦馬がホースインスペクション(競技前の馬体検査)で歩き方に異変がみつかり審査を通過できなかった。演技は違う馬で臨んだものの、4人の代表にはなれず補欠に甘んじた。

林 リオは悔しかった。そして、東京に向けて気持ちを切り替えた。これからの現役生活で五輪はたくさんあるけど、地元開催というのは目指せるだけで貴重なこと。

ようやく環境が整った。本来のプランでは19年夏から本番用の馬と実戦に出場するはずだった。ところが候補の馬が決定を目前にして白紙に。一緒に東京五輪を目指す2頭が決まったのは19年9月。実戦は11月と少し出遅れる形となった。

林 候補は2~3頭いたけど、決まりかけで流れてしまい余計な時間がかかったのは誤算だった。新しく決まったのは10歳のフェルナンドと14歳のスコラリ。フェルナンドは潜在能力が高く、スコラリは国際大会の経験もあって安定している。これから大会を重ねて完成度を高めていきたい。

マイナーからメジャー競技へ-。東京五輪は最大のチャンスと感じている。これまで「馬術はなかなかスポットがあたらない」と長い現役生活で感じていた。自身が専門とする馬場馬術は、演技の正確さ、美しさを競う。自由演技では音楽を流すため「馬のフィギュアスケート」と呼ばれることも、一般的に知られていない。

林 どんな競技なのか、多くの人に知ってもらいたいという気持ちは強い。そのためにはやっぱり結果を出すこと。メダルを獲得すると全然違う。フェンシングの太田(雄貴)さんやカヌーの羽根田(卓也)さんも成績を出して有名になりましたから。

その強い思いを行動に移してきた。昨夏はインターネットを通じて資金を集めるクラウドファンディングを立ち上げた。支援金だけではなく、競技への注目も集める意図があった。

林 応援してもらうことによって、皆さんに参加したような感じになってもらいたかった。これをきっかけに企業からの支援もあり、クラウドファンディングの目標だった1500万円に達した。本当に感謝です。

現在の拠点はドイツと所属先である静岡の乗馬クラブ。ドイツでは練習に集中し、所属先ではインストラクターを務める。これまでは半分ずつの時間を過ごしてきたが、年明けからは欧州で開催される五輪代表選考の対象大会を転戦。パートナーの2頭がいるドイツでの生活が主体となる。

林 もういよいよだなという感じ。大会に臨む上で大事なのは馬との信頼関係。それは普段の積み重ねも必要です。今回は馬との時間が少し短かったけど、今までの経験があるのでそれで埋めて頑張っていきたい。【西塚祐司】(おわり)

◆林伸伍(はやし・しんご)1985年(昭60)1月25日、札幌市生まれ。3歳から叔母が勤めていた、ほくせい乗馬クラブ(札幌市)で乗馬を始める。札幌盤渓小5年から本格的に競技を開始し、札幌向陵中、東海大四高(現東海大札幌高)を経て明大に進学。大学卒業時に馬場馬術を専門にする。09年から現所属先でインストラクターを務める。全日本選手権は14、16、18年に優勝。14年アジア大会(仁川)で団体銀メダル。趣味は料理と競馬。家族は両親と兄、姉。171センチ、64キロ。血液型A。

◆馬場馬術 馬術の五輪種目は「馬場馬術」「障害馬術」馬場と障害とクロスカントリーで競う「総合馬術」の3つ。馬場馬術は20×60メートルの長方形の馬場で、馬の動きの正確さ、美しさを競う。演技内容が決まった規定演技と、音楽に合わせて行う自由演技がある。演技の項目ごとに10点満点で採点され、成績は得点率で表される。世界のトップレベルでは90%を超え、16年リオデジャネイロ五輪個人はシャーロット・デュジャディン(英国)が93・857で優勝した。

◆馬場馬術の東京五輪への道 今年1月から5月までの対象大会の成績で候補が4人に絞られる。6月にドイツで開催される国際大会の成績をもとに、総合的に判断して3選手を選ぶ。