白血病から再起を目指す競泳女子の池江璃花子(20=ルネサンス)が、涙の復帰を飾った。昨年1月13日以来594日ぶりのレースで自身が日本記録24秒21を持つ女子50メートル自由形の5組に登場。26秒32で同組1着、全体の5位に入って涙を流した。目標だった日本学生選手権(10月、東京辰巳国際水泳場)の参加標準記録26秒86も突破。24年パリ・オリンピック(五輪)に向けて「第2の自分の水泳人生の始まり」と宣言した。

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池江は、じっとスタート台を見つめた。「戻ってきたなあ」。号砲への反応速度は、筋力がまだ戻っていないために10人中10番目の0秒70。しかし浮き上がると加速していく。25メートルで体半分のリード。ラスト15メートルで追ってくる2位の姿が目に入った。「体が動かない。でも負けたくない」。50メートルを息継ぎ1度で泳ぎ切る。目標の26秒86を大きく上回る26秒32で同組1着。プールから上がると、顔を赤く染めて涙を流した。西崎コーチに「どうだった?」と聞かれ「すっきりしました」と目を輝かせた。

「すごく緊張した。第2の自分の水泳人生のスタート。1番だと思ってなかったのでうれしかった。この場所で泳げて自分のことだけど、感動した」

1年7カ月ぶりのレース。家族からは「とにかく楽しんで」と送り出された。東京出身の池江にとっては「辰巳」は通い慣れた会場。「久しぶりにこの道を通るなあ。胸がキュンと締め付けられた」。レース前は親友の今井に「緊張している?」と突っ込まれた。「1年半出られない悔しさをぶつける機会。誰かに勝つとか、泳ぎ切るじゃなくて、ここまで戻ったことを見てもらいたいと思った」。

何度聞いても、切なくなる。東京五輪のヒロイン候補が昨年2月から白血病で10カ月の入院生活。「毎日吐いたし、1日に何度も戻した」。体重の10キロ減、抗がん剤治療で髪も抜けた。

昨年9月の日本学生選手権は一時退院の許可を得て3日連続で辰巳に通い日大を応援した。メガホンを持ち、立ち上がり、仲間の泳ぎに涙した。最終日は集合写真に入って「今年は出られずに本当に悔しかったので、必ずまたリベンジします」。仲間との集合写真を励みに病と向き合った。日本学生選手権は1年前からの“誓い”だった。参加標準記録の突破に「目標がかなえられたところを見てもらいたい」と喜んだ。

急回復をみせるようにうつる20歳だが、まだレースに復帰したばかり。体調が最優先であることは変わりない。西崎コーチは「2024年が最大の目標。年末までは体作り」と、コロナ禍でもあり慎重に見極める方針。池江は「1番は24年パリ五輪に出場すること。今は全力でタイムを出すではなく、パリに向けて体を戻していければ」と1歩ずつ進んでいく。【益田一弘】

<池江ここまでの歩み>

◆19年1月13日 三菱養和スプリントに出場。得意の100メートルバタフライで1分0秒41と精彩を欠いた。

◆同2月8日 オーストラリア合宿中から緊急帰国、白血病と診断されて入院。

◆同12日 ツイッターで病気を公表。

◆同3月6日 SNSで「思ってたより、数十倍、数百倍、数千倍しんどいです」とつづった。

◆同12月17日 10カ月の闘病生活をへて退院。今後の大目標を「2024年のパリ五輪出場、メダル獲得」とした。

◆20年3月17日 406日ぶりのプールに入り「言葉に表せないぐらいうれしくて気持ちよくて幸せ」。

◆6月16日 西崎勇氏をコーチに迎える新体制を発表。

◆7月2日 練習を公開、当面の目標に日本学生選手権(10月、東京辰巳国際水泳場)を掲げた。

◆同23日 五輪1年前セレモニーに登場。国立競技場で聖火を掲げ「1年後の今日、この場所で、希望の炎が、輝いていてほしいと思います」。大役を終えて大粒の涙を流した。