「歴史的一戦」が実現した。元イラン代表で18年世界王者のサイード・モラエイ(29=モンゴル)が、3回戦で世界ランキング106位のイスラエル選手に勝利した。

レスリング仕込みの独特の低姿勢で相手との距離をつめ、試合開始1分過ぎに技ありを奪い、2分21秒に支え釣り込み足で合わせ技一本。勝負が決まると畳に沈んだイスラエル選手に手を差し伸べて、互いの健闘をたたえ合った。

モラエイはその後、準々決勝で敗れ、敗者復活戦に回ったが、18年大会銀メダルの藤原崇太郎(23=旭化成)に優勢負けを喫した。

イランとイスラエルは政治的に激しく対立している。モラエイはイラン代表だった19年世界選手権東京大会で、イスラエル選手との対戦を避けるため棄権するようイラン政府から圧力を受けたが強行出場。家族の安全を守るためドイツに渡り難民認定を受け、モンゴル国籍を取得した。同11月のグランドスラム(GS)大阪大会の時には、母国からの弾圧が続いていると明かしたが「政治とスポーツは関係ない。柔道は私の人生。五輪で金メダルを取りたい」と決意を語っていた。

柔道界の歴史に刻まれる試合の主審は、数々の大舞台を経験している天野安喜子さん(50)が務めた。花火の老舗「鍵屋」15代目当主の顔も持ち、昨年12月の東京五輪男子66キロ級代表決定戦でも主審として畳に上がった。【峯岸佑樹】