1998年長野五輪スピードスケート男子500メートル金メダリストの清水宏保氏(47)が後輩たちに、「金言」を送った。北京五輪開幕まで100日となった27日、自身以来24年ぶりの金メダルの期待が高まる男子と、2大会連続の頂点を狙う女子の500メートルを展望した。【聞き手=三須一紀】

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日本男子、24年ぶりの五輪金メダルが現実味を帯びている。日本記録33秒79(19年3月)を持ち、19-20年シーズンの世界選手権スプリント部門とW杯500メートル総合で2冠の新浜立也(25=高崎健康福祉大職)と、国内最高記録34秒44(21年3月)を持つ村上右磨(28=高堂建設)が有力候補。その2強に、24日まで行われた全日本距離別選手権(長野)を制した森重航(21=専大)が加わる。

-距離別では新浜が2位、村上は3位だった

清水氏 ともに2月の五輪にピークを合わせているはず。ここで優勝できなくとも問題はない。

-新浜は今季から試していた、これまでより低いブレード(刃)が合わず、大会直前に元のブレードに戻した。不安材料か

清水氏 五輪シーズンに道具をあれこれ変えるのは好ましくないが、不思議なことに私も競技人生で、“当たり”のブレードに出合えたのは1、2本。妥協点を探っていくしかない。

-新浜はブレードの原因も含め「本来のダイナミックでしなやかな滑りができていない」と不調を口にしていたが

清水氏 今は心配しなくていい。この競技は4月から10月半ばまでとオフが長い。その間に陸上でハードなトレーニングを行い、筋肉が肥大化する。今、体が重いと感じるのは当たり前。しかし11、12月とレースをこなせば余分な筋肉が減り、大事な筋肉だけが残り、体が細くなる。そうすれば本来のしなやかさが戻ってくる。また試合を重ねることで神経の反応も早くなる。

-村上の滑りはどうか

清水氏 今回は成績を狙いすぎたのかな。五輪にピークを持って行けば良いわけだから、あそこまでプレッシャーを感じなくても良かった。

-新浜、村上が清水さん以来の金メダルを獲得するにはW杯転戦で何が必要か

清水氏 ずる賢さも必要になる。W杯で良い意味で手を抜くことも大切。私が長野で金を取ったシーズン前半のW杯では、7割の力で滑って3、4位の位置なら『力を1、2割上げればトップに行けるな』などと算段を図っていた。海外のライバルに本来の実力を見せない狙いもある。相手も油断する。長野の時はそれができていた。逆に02年ソルトレークや06年トリノでは海外勢にそれをやられた。

-距離別では森重という新星が初優勝した

清水氏 私も驚いた。私ならそのまま転倒してしまうようなところまで体を倒して、その反動で勢いをつける、しなやかな滑りだ。ただ、彼は距離別にピークを持ってきていた可能性がある。初のW杯転戦で食事の違い、時差、強力な海外勢との戦いで体力面、精神面ともに持つかが心配。私も長い競技人生でそういう若手を何人も見てきた。

-五輪で活躍するにはずっとトップギアで走り続けるのは避けた方がいいか

清水氏 五輪の枠取りを考えながらだが、車で例えれば低燃費走行をいかに続けられるか。W杯でガス欠になって年末の選考レースや2月の五輪で車体やエンジンにダメージが残っていたら、活躍どころではなくなってしまう。新浜、村上を始め、男子短距離界に金メダルの期待がかかるからこそ、ペース配分を考えたシーズンにしてほしい。

◆スピードスケートの北京五輪日本代表 11、12月のW杯前半4大会と12月の代表選考会(長野)の結果で決まる。W杯の成績により各国・地域に最大で男女各9人の代表枠が配分される。日本連盟が定めた、W杯で平均的に3位以内に入るなどの基準を満たせば、男女各4人までに事実上の内定が出る。残る代表枠は、選考会の成績で選ぶ。

◆清水宏保(しみず・ひろやす)1974年(昭49)2月27日、北海道帯広市生まれ。白樺学園高-日大。五輪は94年リレハンメルから06年トリノまで4大会連続出場。98年長野大会は500メートルでスピードスケートでは日本勢初の金、1000メートル銅。02年ソルトレークシティー大会500メートル銀。世界距離別選手権500メートルで5度の金。10年に現役引退。現在は札幌でトレーニングジム、高齢者向けのリハビリセンターを経営。今季は日刊スポーツでスピードスケートについて随時、解説する。