冬季オリンピック(五輪)2連覇の羽生結弦(27=ANA)が、国際スケート連盟(ISU)非公認ながら今季世界最高の111・31点を記録した。

右足関節靱帯(じんたい)損傷を克服して4月16日の世界国別対抗戦(大阪)フリー以来252日ぶりに競技復帰。初披露したピアノ曲の新SP「序奏とロンド・カプリチオーソ」で首位発進した。3連覇が懸かる来年2月の北京五輪の代表最終選考会を兼ねており、内定の日本一に王手をかけた。クワッドアクセル(4回転半=4A)を投入するフリーは26日に行われる。

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次元が違った。羽生が今季初戦とは、新SP初披露とは、右足首捻挫の病み上がりとは思えない質を見せつけた。五輪シーズンに用意したピアノ曲。序盤は穏やかな旋律に合わせ、まず4回転サルコーを決めた。出来栄え点(GOE)で驚異の4・57を上積みし、続く4回転-3回転の2連続トーループをこらえた。「4回転半を練習してきたことが土壇場で生きたのかな」。進化が止まらない。全日本としては自己最高の111・31点が待っていた。

力強く、速くなる調べに乗ってダイナミックにステップを踏み、最後は余裕で3回転半に成功。水色を基調とした新たな衣装で右の拳を突き上げ「一心不乱に戦いながら何かをつかみ取るイメージ」を完璧に表現した。非公認ながら今季世界最高点。2位の宇野に9・43点差で首位発進した。

いつか演じたかったというサンサーンスの名曲「序奏とロンド・カプリチオーソ」。初陣にして史上最高プログラムになる可能性がある。平昌五輪で連覇し、今もSPの世界記録として残る「バラード第1番」と同じジャンルを探した。コロナ禍で「暗闇の底に落ちた」時に救われた「春よ、来い」のピアニスト清塚信也氏に編曲を頼んだものだ。

さらにバトル、ボーンの振付師にオーサー、ウィルソン両コーチという世界的陣営と「コラボした」オールスター作品。2季、拠点のカナダに戻れない中で仙台でリモート習得した。「まだ洗練されていないけど『バラ1』『SEIMEI』という自分の代表作の価値以上に具体的な物語が、曲に乗せる気持ちが、強くあるプログラム」。初演にして、演技構成点「曲の解釈」の項目で自身初となる衝撃の10点満点を出した。

孤高の挑戦が引き寄せた産物でもあった。世界初の成功を目指す4回転半の練習が停滞した時に完成した曲だった。「アクセルが進捗(しんちょく)しなくて苦しかった時期で、暗闇の中、自分が歩んできた道のりが蛍の光のようにパッて広がって。エキシビ(ション)のように感情を込めて滑ることができた」。表現を評価する5項目の演技構成点も50点中49・03点。ほぼ満点の域に達している。

「クリスマスと忘れるぐらい集中できた」という伝説のイブ。圧巻のSPで、目指すと明言した北京五輪代表の座に手をかけた。「もちろん4回転半に挑戦するつもり」。前人未到の大技も完成すれば、非の打ちどころがない。【木下淳】