4大大会初の決勝に進んだ世界23位のエレーナ・ルバキナ(23)が、カザフスタン選手として史上初の4大大会優勝を飾った。

68年オープン化(プロ解禁)以降、アフリカ勢として初の4大大会優勝に挑んだ同2位のオンス・ジャブール(27=チュニジア)に3-6、6-2、6-2で逆転勝ち。「言葉にならない。こんな気持ちは初めて」と喜んだ。

最初のマッチポイント。相手のバックのリターンがアウトになっても、ルバキナは小さなガッツポーズを繰り出すだけ。4大大会初の優勝でも、決して取り乱すことはなかった。初めて喜びがはじけたのは、関係者席に駆け上がり、コーチらと抱き合ったときだけだ。

第1セットは3-6で落とした。元来、一定のスピードでの打ち合いを好むルバキナにとって、ジャブールのショットは速度が遅い。飛んでくるのを待ち切れなくて、球を呼び込めずミスを重ねた。

しかし、第2セットに入ると、球を打つリズムをワンテンポ遅らせた。球を呼び込み、順回転をかけ、ネットの高いところを飛ばし、ミスを減らした。また、184センチの長身から、今季女子ツアー最多の210本以上のサービスエースを放つパワーも加わり、逆転につなげた。

ジャブールが多彩なショットで引っかき回しても、ルバキナはほとんど感情を見せず。23歳で、テニスの聖地で4大大会初の決勝とは思えない冷静さで、カザフスタンに恩を返した。

ルバキナは、17年、ジュニア世界3位にまでなったロシア・モスクワ出身の有望選手だった。しかし、「(財政的な)支援を受けられなかった」ことで、一時はツアーを転戦するプロ転向を諦めることも考えた。

そこに手を差し伸べたのが、07年に政治家で大富豪のウテムラトフ氏がテニス連盟会長に就任したカザフスタンだった。石油産出国のオイルマネーを背景に、12年には女子で同33位のプチンツェワ、16年には男子で同38位のブブリクを、ロシアからカザフスタンに国籍を変更させた。

ルバキナも、「お互いを見つけることができた最高のタイミングだった」と、18年にロシアからカザフスタンに国籍を変更。「今はカザフスタンを代表して幸せ」と胸を張った。

今大会は、主催者であるオールイングランド・ローンテニスクラブ(AELTC)が、ウクライナに侵攻したロシアと、それを支援したベラルーシの選手の出場を認めない異例の大会となった。その女子の決勝で、カザフスタン会長が見守る中、ロシア出身のルバキナに、AELTCのパトロンであるキャサリン妃が優勝皿を渡した。その姿を、クラブはどのような気持ちで見たのだろうか。

◆ウィンブルドンテニスは、6月27日から7月10日まで、WOWOWで全日生放送。WOWOWオンデマンドで最大10コートがライブ配信される。