パリ五輪でミュンヘン大会以来52年ぶりの五輪メダルを目指すバレーボール男子日本代表「龍神NIPPON」。37人の登録メンバーから若手選手にスポットを当てる連載の下編は、パナソニックに所属する20歳の193センチオポジット、西山大翔(ひろと)。1度は離れたコートに再び戻り、初めて日の丸を背負う男が代表、そしてバレーボールへの思いを明かした。【取材・構成=勝部晃多】

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1度バレーボールを辞めた男には、想像すらしていなかった招集だった。身長193センチ、最高到達点350センチ。守備には入らず、スパイク専門のオポジットで日本代表に初選出された20歳の西山は言った。「目標ではあったけど…。自分にはちょっと早いかなと思った」。偽りのない本音だった。

大きな挫折を味わった。21年4月。神奈川・東海大相模高のエースとして春高出場に貢献した実績を引っ提げ、東海大に入学。しかし、半年足らずで中退した。「環境が合わなくて、ちょっとやりづらくなった」。中2から打ち込んできたバレーボールも「もういいかな」と、やる気を喪失。その後はボールに触れることもなく、自宅で漫画やアニメに没頭する日々を送っていた。

だが、ある知らせが再びコートに引き戻してくれた。就職活動を始めようとしていた同年末。Vリーグの強豪、パナソニックから誘いを受けた。東海大時代、別選手の視察が目的だったスタッフの目に留まったのがきっかけだった。「チャンスをもらえたと思った。このままではダメだと、モチベーションになった」。気持ちを入れ替え、入団を決意した。

翌22年6月に正式加入。ブランクを取り戻すべく、必死に練習に取り組み、10月にリーグ戦でデビューした。「自分にはバレーしかない」。コートに立つと、忘れていた思いがよみがえった。幼少期に8年間プレーしたサッカーは「周りとレベルが違う」と諦めたが、バレーボールは違った。復帰して初めて、手放したくないものと自覚した。そんな思いが、同年のU-20代表入りにもつながった。

代表合宿で汗を流せば流すほど、モチベーションの向上を感じている。9月の五輪予選に出場できる14人に選ばれるには、激しい競争が続く。だが、もう迷いはない。「まだまだ成長したい。代表でスタメンに入ることが目標です」。その先に、自身の想像を超える西山大翔の姿がある。(おわり)

◆西山大翔(にしやま・ひろと)2003年(平15)3月4日生まれ、神奈川県南足柄市出身。小学生時代はサッカーに打ち込み、岡本中2年時にバレーボールに転向。卒業時には身長191センチに。東海大相模高ではエースとして活躍し、1年時に同校16年ぶり3度目の春高出場に貢献。21年に東海大に進学も、5カ月で中退。22年6月にパナソニックに入団。同8月のアジアU-20(ジュニア)選手権にはアウトサイドヒッターとして選出され出場した。193センチのオポジット。

◆オポジット(OP) 攻撃専門で守備に入らず、サーブレシーブを行わない。後衛になった際もレシーブはせず、バックアタックで攻撃に参加。主にセッターと対角になりライトに配されることが多い。なお女子日本代表は全員で守る方針でオポジットはいない。