斉藤立(20=国士舘大)が、怪物に敗れた。

前回大会準優勝で、迎えた2度目の大舞台。念願のテディ・リネール(34=フランス)と初対戦し、準々決勝で延長戦の末、指導3で反則負けした。

まだ伸びているという身長は192センチで、体重は167キロ。真っ向勝負を204センチ、145キロのリネールに挑んだが、ゴールデンスコア(GS)の延長戦に入って3分14秒(計7分14秒)に3つ目の指導。はね返された。

序盤は内股や大外刈りで相手の体勢を崩し、場内を沸かせたものの、徐々に地力で押され始める。受ける時間が長くなり、疲労が限界に達した終盤は技が出なくなった。

相手も膝に手を突くなど苦しんでいたが、我慢比べで屈した。オリンピック(五輪)の金メダル2個を持ち、世界選手権では2階級で計10度の優勝を誇る絶対王者の壁は高かった。

初優勝へ命懸けの覚悟を示していた。初出場した昨年10月の本大会は、リネール不在の中、決勝に進出。しかし伏兵のアンディ・グランダ(31=キューバ)に敗れて、銀メダルに終わった。

15年に亡くなった仁さん(享年54)との、全階級を通じて日本勢初となる親子世界王者の夢を阻まれ、失意に暮れた。

今大会に向けては「お父さんのことは考えず、自分は自分」と集中しつつ燃えていた。

「最も大事な試合。自分の命に替えても勝たないといけない」

宿願を成就すべく、今年3月には“予行演習”も敢行した。在学する国士舘大の道場で行われた国際合宿に、リネールが来日。手合わせする機会に恵まれた。

乱取りを志願し、体感した。1日30分。「本気ではなかったと思うけど『これ無理や…』というほどの差はなかった」。続けて思った。「絶対に超えたい。内容とか正直どうでもいいので、まずは世界選手権という大会を泥くさく勝ち切りたい」と。

その過程には、もちろん絶対王者の撃破も含まれていた。

「世界選手権で対戦したい選手は、何と言ってもフランスのリネール選手。全力を出し切って、どのぐらいできるのか。ただ、そこで負ける気はなく絶対に勝てるという自信を持って、全てを懸けて挑戦したい」

しかし、相手は想像以上に強かった。今年も父子Vを果たせなかった。五輪2連覇の父は世界選手権の無差別級(当時)を83年に制していた。40年後、自分も続くはずだった。同じ最重量級。日本の看板を奪い返すはずだったが、怪物を倒す夢は持ち越した。

それでも、存在感は示した。3回戦では東京五輪銀メダルのトゥシシビリ(ジョージア)に横四方固めで一本勝ち。ただ、リネールとの対決で力尽き、日本勢対決となった敗者復活戦では影浦心(27=日本中央競馬会)に指導3で反則負けした。

一転して来夏のパリ五輪へ逆境も、はい上がるしかない。リネールに大国フランスで借りを返すべく、取り組みを見つめ直し、鍛錬を重ねていく。【木下淳】

◆斉藤立(さいとう・たつる)2002年(平14)3月8日、大阪府生まれ。東京・国士舘高-国士舘大3年。5歳から柔道を始める。父譲りのセンスで小中高すべて日本一。男子100キロ超級で18、19年全国高校総体など優勝。21年のグランドスラム(GS)バクー大会でシニアの国際大会初制覇。22年に史上初の全日本選手権親子優勝を遂げた。20歳1カ月は史上3位の年少記録でもあった。昨年12月の世界マスターズも優勝。得意技は体落とし、払い腰、内股。血液型O。