ラグビーのリーグワン1部クボタスピアーズ船橋・東京ベイのSO岸岡智樹(25)が、今オフも全国で「岸岡智樹のラグビー教室」を開催する。

ラグビー界の課題である「地域格差の是正」が大きな目的で、21年に始めて3年目。今年も北は北海道、南は沖縄まで自ら足を運んで小学4年生~中学3年生を指導する。

さらに過去の知見を生かし、バージョンアップさせた点があるという。

リーグワン期間中から練習、社業と並行して進めてきた準備。オフも休む間もなく動き続ける岸岡に、活動3年目への思いを聞いた。【取材・構成=松本航】

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-2年目の昨年は1泊2日の合宿形式も実施されていましたが、今年は7月15~17日に沖縄県、8月13~15日に長野県。2泊3日の合宿も組まれていますね

「ここ数年、コロナで旅行ができない状況が続きました。沖縄に関しては『個人でスキルアップ』『家族で旅行に行きたい』というニーズをセットにしました。過去2年間の活動で、移動中に『楽しかったね』と話すのが、親子にとって大切な時間であることを知りました。例えば想定しているのは『ラグビー、もういいかな…』と思っている子どもたちです。お金をラグビーチームでの活動ではなく、家族旅行に使いたいという家庭もあると思います。なのでラグビー教室は2泊3日の中で3回。マリンスポーツの時間、ビーチラグビーの時間も設けています。沖縄の子どもたちはもちろん、本州からも来ていただければと考えています」

-長野県は2年連続です

「開催地の菅平高原で、定期的に行いたいと考えました。去年は7月に行ったのですが、中学、高校、大学、社会人の合宿のピークになる前でした。中心街の期間限定のラグビーショップも、まだ始まっていませんでした。それだったら高校生がたくさん歩いている時期(8月13~15日)にしたいと考えました。ラグビースクールで菅平に行かない子たちもいる。ふらっと行くこともないと思うので、イベントとして機会をつくりました。この時期は強豪校の選手たちが、そのあたりを歩いています。高校生や大学生の練習や試合も見られるようにする。数カ月後に『菅平で見た、あの選手はやっぱりすごいな。どこの大学に行くんだろう?』などと興味を持つだけで、モチベーションに変わるかもしれません。ラグビー教室だけでない経験をしてほしいと願っています」

-「地域格差を埋める」従来の目的に加え、経験を基に新たな可能性を模索しているイメージでしょうか

「過去2年間は“実地調査”の意味合いが強かったです。今年からは場所ごとに狙いや意味合いを変えていますが、本筋は変わっていません。一昨年は6道府県、去年は10府県、今年は14道県で開催します。例えば関西圏。過去2年は大阪でやりましたが、滋賀と兵庫に散らすことで参加できる人がいるかもしれない。四国も1つの場所で行ったからといって、他の3県から集まるのは難しいことも知りました。そのため今年は香川、徳島で1日ずつ開催します。去年の愛媛を含めて、同じ四国での地域格差も分かるかもしれません。新しい場所に行きながら、どんどん変わらないと面白くない。現状に満足していてはダメだと思います」

-準備の段階から工夫が生まれているのでしょうか

「カメラマンの新しいサービスも始めました。1年目からプロのカメラマンに同行してもらっていて、そこから生まれた発想です。ラグビー教室は“現場”。現場経験をしてもらうプログラムです。わが子を撮影するのが好きな保護者さんがたくさんいます。それなら『プロから学んでみますか?』となったんです。当日だけでもOK。事前にオンライン講習、事後にフィードバックがあるサービスも作りました。ラグビーをするのは選手だけれど、取り巻く人たちにも楽しんでもらいたいと考えました」

-発想の柔軟さを感じます

「『こんなことをやったらおもろいんちゃう?』という部分では、今年からインターンの大学生3人が加わりました。1年生もいて、年齢的に僕よりも子どもたちと近い。とにかく何でもやってもらっています。グッズを作る時の見積もり、取引先への問い合わせ…。大学4年間は『自分が何が得意なのか』を見つける時間でもあると思います。僕自身も勉強になりますね。そのモチベーションに感化されることも多いです」

-驚いたことはありますか

「まだ僕と年齢が10も離れていないんですが、ギャップを感じます。社会人になって『経験』があると、できるか、できないかで先に物事を判断してしまう。『できない』となったらやらない。でも、大学生は本当に“スポンジ”のようで、1度やってみるんです。例えば備品をラグビー教室の会場に送る。その見積もりを取ってもらいます。理想としては『安全に、正確に、安く、早く…』となります。一生懸命調べてくれて出てきたのが、ある県の運送業者さん。最初は『その業者って沖縄まで運んでくれると思う?』となりますよね。でも、それって大事なんです。今までの僕の頭にはなかった。調べ切れていなかったのもあって、大手しか目をつけていなかったんです。『それ、東日本管内しかダメなんだ』となっても『それなら今度、東日本から東日本に運ぶ時は、そこがいいかもしれない!』となるんですよね」

-物事を継続させる上で、次のヒントになりますね

「もちろん人や、世代によって考えは異なります。『大手が安心だろう』という方もいると思います。いろいろな意見があってよくて、それを議論して、最善を選ぶ過程が大事だと思うんです。2年間で一通りやってみて、既存の形はあります。ただ、より良くするために、変化していくことが大事だと考えています」

-イベントに関わる人が増えています。その意味は大きいですか

「分かりやすい部分ではSNSのフォロワーが増えています。参加する人、僕の活動を応援してくれている人、興味を持ってくれている人が増えている。少なからず魅力が伝わっていたり、賛同してくれていたり…。その輪が広がっている感覚はあります。今年の開催地にある群馬や山梨は初めての場所ですが、関係者の方に話を持っていくと『ぜひとも!』と受け入れてくださいました。そういったところまで、情報が届き始めている。それはモチベーションになっています」

【2023年の日程】

◆北海道(6月10~11日)

サマーキャンプ(コロポックルグラウンド)※6月2日締め切り

◆静岡(6月24日)

ラグビー教室(エコパ芝生広場2)※6月22日締め切り

◆静岡(6月25日)

1Dayサマーキャンプ(静岡聖光学院高)※6月22日締め切り

◆沖縄(7月15~17日)

サマーキャンプ(21世紀の森ラグビー場)※6月30日締め切り

◆香川(7月22日)

会場未定※7月20日締め切り

◆徳島(7月23日)

会場未定※7月20日締め切り

◆滋賀(7月29日)

会場未定※7月27日締め切り

◆兵庫(7月30日)

会場未定※7月27日締め切り

◆福岡(8月11日)

ミクニワールドスタジアム※8月9日締め切り

◆長野(8月13~15日)

ホテル柄澤※8月1日締め切り

◆群馬(8月26日)

桐生大※8月24日締め切り

◆山梨(8月27日)

御勅使南ラグビー場※8月24日締め切り

◆富山(9月2日)

富山第一高※8月31日締め切り

◆新潟(9月3日)

会場未定※締め切り未定

 

◆岸岡智樹(きしおか・ともき)1997年(平9)9月22日、大阪府生まれ。小5でラグビーを始め、東海大仰星高(現東海大大阪仰星)、早稲田大を経て、20年にクボタ(現東京ベイ)入り。U20(20歳以下)日本代表歴あり。頭脳プレーが得意。174センチ、83キロ。