2人の“石川”が、日の丸を背負う1人のプレーヤーとして、向かい合った。

男子代表の主将であり、絶対的な枢軸を担う兄、石川祐希(27)。そして女子代表の得点源として大きな期待がかかる妹、石川真佑(23)。パリ五輪予選として開催されるW杯バレーは16日、女子代表の初戦ペルー戦(東京・代々木第1体育館)で幕を開ける。30日に開幕する男子代表とともに、全7試合を戦い上位2チームがパリ切符を手にする。それぞれの日本代表にかける思い、そして五輪出場権獲得への覚悟とは-。大舞台を前に紡ぎ合った。【取材・構成=勝部晃多】

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長く日の丸を背負ってきた2人だが、これまでそろって取材を受けることはなかった。もちろんオファーはあったが、実現してこなかった背景には、祐希の確固たる考えがあった。

祐希 今までは僕がお断りしていました。選手として、まだまだ上っていかなければならないという思いが強かったので。

揺るぎない信念からだった。14年に中大に進学し、在学中の18歳でイタリアに渡った。バレー大国でもまれ、壁にもぶつかった。そして8季目を迎えた昨季。セリエAミラノの主軸として、プレーオフに進みレギュラーシーズン無敗の優勝候補ペルージャを下した。クラブ、個人とも初の4強入り。日本選手初のイタリア通算2000得点を記録するなど、手応えは結果と数字にも表れた。

祐希 もちろん、まだその先を目指さなければいけないんですけど、そろそろいいかなという風に感じて。(一緒に取材を)受けさせていただきました。でも、根本は「仲いいです」「お互い頑張ってます」みたいに兄妹をアピールしたい思いは一切ないんです。もちろん家族なので、兄妹として、1人の妹として応援している気持ちはあります。ただ、バレーをしている時は兄妹を強く意識することはない。1人のアスリートとして、頑張ってほしいと思っています。

互いの現在地が、膝をつき合わす機会を生んだ。

真佑 私もそうです。家族は大切だけど、兄妹として「一緒に」っていうよりも、まず1人の選手として頑張っていきたい。これまで周りからは言われることもありましたけど、自分の中では、しっかりプレーして成績を残すところに目を向けてきたので。だから私もそこまで(兄妹を)意識していることはなくて。

幼いときから、ともにバレーと真正面から向き合ってきた。だから子どもの頃の2人の思い出も、「何かあったと思うけど…。すぐに思い出せませんね」と苦笑いで口をそろえる。それでもやはり“共通項”では、刺激を与え合ってきた。

真佑 バレーを始めたきっかけは兄と姉です。練習についていって楽しそうだな、って思ったので始めました。

祐希 妹は僕以上に小さい頃から実績を残しているので、尊敬している部分も多いですね。

ポジションは同じアウトサイドヒッター。ともにジャンプサーブを得意とする。真佑は祐希のプレーから学ぶことが多いと明かす。

真佑 特に注目するところは、打ち方。自分の中で必要なところは取り入れてやっていけたらいいなと思っていて。

祐希からは、1度だけアドバイスを送ったことがあるという。

祐希 そういえば、高校2年生の時に聞いてきたことがあったよね?

真佑 スパイクでうまくいってなかったので、動画を送ってもらって。

祐希 普段は聞いてこないので、あの時はびっくりしました(笑い)。

真佑 近いところで一番聞きやすいっていうのはありましたね。

いよいよ迎える大舞台。祐希は自らの経験を踏まえて、心がけるべきポイントを口にした。

祐希 ブロッカーとか高い相手と戦うことになる。今までVリーグで打っている感じだと、やっぱり止められるケースがあるかなと。工夫して打たないといけない。

真佑 そうですね。私も今までやっているプレーのままで通用するのか、っていう思いがあります。高さもあるし、パワーも違うので、相手と対しながら変えていかなきゃいけないところがあると思っています。

代表チームでの立ち位置こそ異なるが、己の役割を自覚する言葉には、2人の強い覚悟がにじむ。

祐希 自分のプレーはもちろん最大限のパフォーマンスを発揮して、チームを勝利に導くことが僕の役割だと思っています。

真佑 私は、まだスタートから確実に出られる立場ではないと思っています。しっかりそこをつかみ取るっていうところもそうですし、どんな状況でも自分自身のプレーを出せるように常にいい準備はしていきたい。

目指すものは同じ。パリ五輪出場権獲得へ、日本代表選手として最後にエールを送り合った。

真佑 男女でしっかりオリンピックに出られるように、五輪切符を取るのが一番の目標。お互いにそれぞれの役割をしっかり果たせればと思います。

祐希 スタメンを勝ち取って試合に出てほしいですし、出場権を獲得するのはとても難しいし、苦しい戦いではあるけど、それに打ち勝ってほしいと思っています。

2人の石川が、それぞれの決意を胸に、代々木のコートに立つ。

◆石川祐希(いしかわ・ゆうき)1995年(平7)12月11日、愛知県岡崎市生まれ。小4で競技を始め、愛知・星城高では2年連続3冠(インターハイ&国体&全日本高校選手権=春高)を達成。14年に中大に進学し、在学中からイタリアでプレー。14年に代表初選出。21年から主将を務める。現在はセリエAミラノ所属。192センチ、84キロ。

◆石川真佑(いしかわ・まゆ)2000年(平12)5月14日、愛知県岡崎市生まれ。小3時に姉と兄祐希の影響で競技を始め、長野・裾花中で全国大会2度優勝、下北沢成徳高でも日本一に輝く。19年に東レに入団し同年に代表初選出。21年に東京五輪出場。今季からは兄と同じイタリアのセリエAフィレンツェでプレーする。174センチ、64キロ。