ラグビーワールドカップ(W杯)日本大会で8強入りを果たした日本代表は世界を驚かせ、多くのファンの胸を揺さぶりました。日刊スポーツでは担当記者による「グッときた瞬間」を連載。取材で見えた、選手の光り輝く瞬間を振り返ります。

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10月13日、横浜・日産スタジアムのスコットランド戦。悲願の8強をつかむ、最後のプレーはFB山中亮平(神戸製鋼)のタッチキックだった。ホーンが鳴り、観客席に向けて左足を振り抜くと「僕が蹴り出したかったので、ずっと呼んでいました」。少年のように純朴な笑顔にグッときた。

8月に米国と戦ったフィジー遠征。W杯前最後のアピールの場で、自ら「あんな落とし方は最近なかった」と振り返る豪快なノックオン。188センチの長身でアピールすべき、キック処理でミスを犯した。その直後、ラック近くにコロコロと転がったボール。誰よりも早く飛び込み、自分で奪い返した。過去を知る仲間たちもそろって「あの山ちゃんが!?」と驚いたという。

8年前から堂々のW杯代表候補。だが11年4月、ひげを伸ばす目的で使った育毛剤に禁止薬物が含まれており、2年間の出場停止を科せられた。大阪・東海大仰星高の恩師には「僕、人生どうしたらいいですか?」と泣いて相談した。年齢的に旬だった15年はW杯直前で落選。“天才”と呼ばれた31歳に後はなかった。

フィジーで着た桜のジャージーは、芝と土の色に汚れていた。神戸製鋼を取材して4年。過去にない執念が見えた。泥まみれになったスターを、神様は見捨てていなかった。【松本航】