生え抜き野手の育成は、阪神にとって、苦闘の歴史と言える。ある球団関係者は言う。「高卒野手で主力になった選手は少ない。特にスタープレーヤーで言えば、近年では藤田平さんや掛布さんぐらいだ」。新庄や関本らもいるが、やはり希少例。育ちにくいのは間違いない。やはり取り巻く環境が原因だろうか。人気球団で取り巻く環境は騒がしい。人気先行でチヤホヤされると、伸びしろを奪ってしまう。

　その裏返しで、主力選手は大卒が多い。近年で言えば、田淵、岡田、和田、桧山、鳥谷…。ある程度、完成された選手がそのままプロの水に適応する。この２年のドラフトも、その流れに沿っている。１５年には高山、坂本の明大コンビをドラフト１、２位で指名。昨年は大山を一本釣りした。そんな中で、記者は１人の選手に苦闘の歴史を塗り替えてほしいと思っている。北條だ。昨年に飛躍の足がかりを作った。今キャンプでの評判もいい。遊撃のレギュラー定着が見えてきた。球団関係者は「金本監督でなければ、ここまで起用していなかっただろう」と断言する。育成の使命を背負う指揮官もまた歴史と戦っているのだ。

　北條育成に成功すれば、球団は大きなサンプルを得る。風穴をあけてくれないか。金本監督との二人三脚に注目している。【阪神担当＝田口真一郎】