野球界にとって春季キャンプ初日の2月1日は元日で、キャンプ期間は“お正月”のようなもの。1年間のあいさつにと、球団OBだけでなく他のスポーツ界の選手ら、さまざまな人が球場を訪れる。巨人の沖縄キャンプ取材中、懐かしい顔に再会した。ボクシング元世界3階級制覇王者亀田興毅氏。ボクシング担当時代、現役時代の亀田氏を担当した。

 所属ジムの無期限活動自粛など、亀田家が大騒動の渦中にいる時だった。当然耳が痛くなる内容の記事も書いた。亀田氏との関係は何となくぎくしゃくし、そのまま担当を離れた。あれから7年。球場内の通路で遭遇した。少しためらいつつ声を掛けた。「おー!何してんの? 久々やなあ」。昔と変わらぬ明るい笑顔で手を差し出してきた。

 とはいえ、久しぶりすぎた。お互いに、かなり気まずい。ジャブの打ち合いで、会話が弾まない。そんな空気を察した亀田氏が突然、周囲にいた関係者の方を向いて口を開いた。「この方は、日刊スポーツのバッシング記者さんや!」。いたずらっぽくニヤッと笑う亀田氏。沈黙、のち爆笑。機転の利いた冗談まじりのひと言で場は和み、2人の間にあった、目に見えない“壁”を取り払った。

 かつてはビッグマウスとパフォーマンスで世間を騒がせた。そのすべては「どうすればみんなを楽しませられるか」という考えも根幹にあったと思っている。「お互い、年をとったもんやね」と言いつつも、現役時代のエンターテナーぶりは健在だった。選手らへのあいさつを終えると「巨人には、いい選手がいっぱいいてるよね。おっさんになっても、しっかり取材してるん? 選手はみんな頑張ってるんやから、取材頑張って野球のいい記事いっぱい書いてな!」と笑って球場を後にした。シーズン開幕まで1カ月を切った。かつての取材対象者から、気を引き締め直すきっかけをもらったと思っている。【巨人担当 浜本卓也】