チームカラーのエンジの帽子から、眉毛付近まで伸びた前髪がのぞく。旭川大高の先発、沼田翔平投手(3年)は清潔感たっぷりに両サイドを刈り上げ、1球ごとに帽子を取ると、整えられた黒髪が甲子園の西日に映えた。イケメン右腕だけではない。「丸刈り禁止」のチーム方針の下、史上初のタイブレークで敗れたが100回大会の夏に新たな風を吹き込んだ。

 甲子園出場は9年ぶりだった。「丸刈り禁止」は昨春から。それまでの大会は5厘刈りで臨んでいたが、端場雅治監督(49)は「僕の中で『何かを変えないと』と思いました。勝っていくための1つの方法」とチームに変化を求めた。髪を伸ばすことで注目を浴びる。「逆に自覚が芽生える。恥ずかしいプレーをすれば、ちゃんとしてないからと言われる」と野球への効果を期待した。朝の集合時に寝癖があれば準備不足。身だしなみも野球に通じる。ツーブロック、整髪料は禁止だが「どの程度の長さが適正か。考えることも野球に生かして欲しい」と、結果につなげてきた。

 今大会の参加56校で、ヘアスタイルが自由なのは旭川大高と慶応の2校。丸刈りを禁じた旭川大高に対して、エンジョイベースボールの慶応は自由。10年ぶりに勝利した前日5日にサヨナラ打を放った宮尾将内野手(3年)は、川崎市の人気住宅地の武蔵小杉で散髪する。森林貴彦監督(45)は、髪形だけではなく、普段の練習、生活から選手の自主性を重んじる。「ザ・高校野球というのではなく、違うスタイルもあっていいと思います。今後の発展を考えても変わっていく姿を見せないといけない。伝統だから、今まで丸刈りだからというのはどうなんでしょうか。ポリシーは人それぞれ。僕たちが勝って、そういう発信ができたら」と言う。

 日本高野連の調査では、本年度の全国の野球部員数は昨年度から8389人減の15万3184人になった。4年連続の減少で、16万人を割り込むのは15年ぶり。1年生の部員数は平成以降で最少だった。楽天岸は、丸刈りを嫌って地元の名取北(宮城)に進学した。高額な野球用具やグラウンド不足などに加え、ヘアスタイルが青少年の野球離れにつながるのではという論調は根強く残っている。

 そもそも丸刈りは、日本高野連が定めたものではない。規定もない。竹中雅彦事務局長は「全然自由にしたらいいと思います。野球をするのに髪形は関係ない。高校野球=丸刈りという時代ではない」と言い、元箕島監督・尾藤公氏(享年68)の言葉を思い返した。

 「茶髪でもピアスでも、ええと。野球を選んでくれたことに感謝している。これは昔から言ってました。今の少子化とか、尾藤さんは分かっていたんでしょう。おしゃれしたいというのは、野球部員も一緒。まったく問題ないと思ってます。それよりも内面」と、変化の兆しを歓迎している。

 8回を投げた沼田は「まったく後悔はない。悔いがあれば泣いてます」と笑った。伝統だけではなく、自主性、多様性があるべき。そんな時代に入ったのかもしれない。【前田祐輔】