1軍昇格のタイミング-。今年も各チーム、選手の登録あり、抹消ありと目まぐるしいほどの入れ替えを行っている。プロ野球界、1軍とファームにはそれぞれの思惑があり、かなりの温度差があってチーム内でよく物議をかもしだす問題。理想は、いかに対象選手の調子がピークの時に起用するかだが、そうはいっても1軍には1軍のローテーションが確立されている。主力の登板日を変更してまで若手をマウンドに上げるはずがない。私、球界に携わって登録、抹消のいろんなケースを見てきた。選手は知るよしもないのは確かだが、今回、新人でありながら、物議をかもしだした中、見事プロ入り初登板で首脳陣の期待に応えた阪神横山雄哉投手(21)にスポットを当ててみたくなった。

 昇格前、ウエスタンで最後に投げたのが5月15日の広島戦(鳴尾浜)だった。内容は5回4安打1失点(自責1)、2奪三振、与四球3。調子はいまひとつだったが、もう1軍昇格のうわさはまことしやかに立っていたし、力的にも昇格は時間の問題だと思っていた。この時の久保ファームピッチングコーチの話がこうだった。

 「もう、ファームの試合とか、練習ではやるべきことはやってここまできていますし、今日みたいに調子はあまり良くなくてもこのぐらいは投げます。頭打ちといったらいいんですかねえ。今は目新しい刺激がほしい時期にきています。ですから、もう1軍への推薦はしていますし、上で投げさせてほしいんです。まあ、結果は打たれることもあれば、ピシッと抑えることもあるでしょうが、いずれにしても1軍で投げれば何か目新しいものが出てくるでしょう。反省なり、何なりができると思います。これが今の横山なんです」

 1軍のマウンドへ上がるしかない。そうはいっても1軍の首脳陣が「投げてみないとわからない」の不安を抱くのは当然。「刺激を与えないと前に進まない」の結論を出しているファーム首脳陣。このあたりの考え方に大きな温度差があり、物議をかもしだす原因になっているのは間違いない。

 そういう意味で今回のデビューは本人の「1試合、1試合自分のピッチングを心掛けて、それが結果的にアピールにつながればいい」という邪念のない純粋な野球に取り組む姿勢が大きな要因だったといえるだろう。

 ピッチャーの生命といえるストレートが持ち味。久保コーチの話を聞いた時、仮に横山が初登板でノックアウトされてもこのコーナーで取り上げる予定でいたが、あっぱれ。勝ち星こそつかなかったものの、7回6安打1失点(自責1)5奪三振、与四球2の内容。ドラ1とはいえプロ入り初登板、初先発。それも相手が宿敵巨人で勝ちゲームは立派。溜飲を下げた虎ファンは数多くいたはずだし、場所は本拠地甲子園球場。新戦力の台頭にはファンは一段と燃える。観衆37174人。盛り上がった。持ち味のストレートは最速149キロを計時。バット3本をへし折る球威は圧巻。「調子自体はそれほど良くなかったが、気分的に乗って投げることができました。ファームとは違う緊張感はありましたが、しっかり腕は振れていましたし、全球、気持ちを込めた球が投げられました。相手はテレビで見ていた人ばかり、自信になりました」。柱になれる素材を見た。

 今回の昇格にたどり着くまでには1、2軍首脳陣のせめぎ合いがあり、事態は紆余曲折があったに違いないが、和田監督に「はじめから腕はしっかり振れていた。マウンド度胸もあるし、次回もいってもらう」と言わせ、中西ピッチングコーチに次回の起用について聞いてみると「もちろん」のひと言で片付けた。

 両首脳が次回を楽しみにしている横山のデビューは素晴らしかったが、前年のドラ1岩貞は課題を残した。目下ウエスタン首位打者の中谷も1軍定着はできなかった。より良いチーム作りを目指すばかりに出てくる1、2軍首脳の温度差、せめぎ合いは今後も永遠に続く。プロ野球界、ファンにアピールするための裏側にはこうした厳しい実態がある。そして、こうした実態があって一歩、一歩成長しているのだ。