プロ野球の原点は-。ファンである。人気稼業といっても、一企業としてフロント、ユニホーム組の評価は「球場に、いかに多くのお客さんを呼び込むことができるか」にある。観客動員だ。人を集めるための貢献度が、首脳陣、選手個々に与えられた使命。要するにファンサービスを考えた時、まずは勝ち星である。勝利にまさるサービスはない。そして、来場してくれた人に感動を与え、満足感を味わってもらうこと。その後も球場に足を運んでくれるだけの気持ちにさせる好プレーを披露するかである。そのためのチーム作りは必要不可欠。若手を中心にしたチーム作りの原点を掘り下げてみる。

 一般企業でいうなら、選手は一商品である。球団運営はこの選手のプロのワザを売って商売している。いかにいいプレーが見せられるか。いかにお客さんを感動させられるか。タイガースのユニホームを着て指揮を執っていた時の、野村監督のこのひと言がいまだに忘れられない。「プロ野球選手としての最低限の義務は、常に心、技、体、頭をベストの状態にしてグラウンドに出ること」である。スラッと聞き流していれば何の疑問も感じない言葉かもしれないが、あまり聞き慣れない“頭”に反応。15年以上経った現在もはっきり焼き付いている。確かに野球は体で技術を覚え、体の反応によってプレーをして勝負するスポーツだが、一流選手は計り知れない頭脳を持ち合わせている。ゲーム展開の先、先を読んでいく頭脳。前回、前々回、あるいはそれ以前に対戦した時の記憶。また、あらゆる異なった場面での状況判断等々。高度な技術を身に付けるためには、やはり頭は必要な武器なのだ。

 話題はファームの若手である。まだその域には達していない選手だが、チーム作り=若手の成長は1、2軍の首脳陣全員が理想としているチーム作り。ところが、ペナントレース中、いざ選手の入れ替えとなると意見が合わなくなる。勝つことが使命の1軍。若手の起用を強調するファーム。思惑は180度とまではいかないまでもかなりの差があるのは確か。古屋監督は「若手の育成に70%の比重をかける」方針で指導にあたっていることから「もう少し若い選手を使ってもらえるとありがたいんですが、いまの上のチーム状態を考えると、若手の起用はむずかしいでしょうしねえ」と2軍監督の立場を強調していたがチーム作りの現状が過去と同じことの繰り返しならば、阪神はいまだにまわりの反応を気にしたチーム作りをしていることになる。これでは進歩がない。

 どうするべきか-。思い切った手を打つしかない。失敗を恐れず決断することだ。先日甲子園球場のOB室で、掛布DCと忌憚のない会話をしている中で、こんな話が出てきた。なかなか説得力があった。「どこかで、思い切らないと若手は育っていきません。どの選手もある一定のレベルまでは成長するんですが、そこから上を目指す場合、ファームでなんぼいい結果を残しても伸びません。レベルの問題ですね。成長はそこで止まってしまいます。やはり、そのレベルから抜け出そうとするなら、もっとハイレベル、要するに1軍の野球を経験させることです。そうしたら、高いレベルの力に準じた成長しますよ」。口調は熱い。指導している選手を思えばこそだろうが、さらにこう付け加えた。

 「問題は方法ですね。かなりむずかしい決断をしないといけませんが、例えばベテランの疲労度が高くなり、少々休ませた方がいい時とか、主力であっても調子が極端に悪くて結果が出せない場合があるわけですから。そういう時に起用してやったら、打てないことの方が多いと思いますが、その一打席が後になって生きてくる可能性はあります。どこかで思い切ってほしいね」 

 私も同じ意見だ。やってみる手はある。いま阪神は北條が成長している。江越も力を付けてきた。中谷はウエスタンの首位打者争いをしている。その他にも横田、陽川といった強化選手がいる。古屋監督も掛布DCと同じ考えだ。「若い選手を1軍レベルまで成長させようとしたら、1軍で起用してもらうことです。北條が上に行って1打席も打席に立たずにファームへ下りてきましたが、1軍に上がったというだけでかなり成長して帰ってきましたからね」現実を己の目で直視している。1軍はいま首位とはいえ、厳しい戦いをしいられている。果たして、救世主は出現するか-。