阪神タイガース、今年も“ここ一番”の勝負どころで失速した。相も変わらずのレース展開。世間からは「ひ弱なチーム体質」のレッテルを貼られてしまった。同時に、周りの声に振り回される悪しき体質も露呈。OBの一人として文句のひとつもつけたいところだが、9月の半ばまで優勝争いをしている。勝負は時の運ともいう。もう、理屈をこねている場合ではない。反省もいいが前を向くことだ。要するに課題は体質の改善とチームの活性化なのだ。

 監督問題はあくまでも私見です。あしからず。選手としてユニホームを着たOBの私。フロントでは球団の在り方を学んだOBとして、阪神浮沈の鍵を握っているのは掛布DCだと思っている。現在進行中の監督人事には疑問を感じる。

 それではまず課題のひとつ体質の改善は…。和田監督の退任が決定している中、次期監督候補の1番手は同DCだと思っていた。ファンも待ち望んでいるはず。数年前のこと、某テレビ局の放送で甲子園球場を題材にした番組に出演した。その番組のコーナーの中に「記憶に残る活躍をした、阪神OB」のファン投票があったが、並み居るスター選手の中でトップに立ったのは掛布雅之氏だった。私の目には阪神ファンの待望論に写った。そして、タイガースの一員として現場で若手の指導にあたったのは、どう見ても監督に迎えるための足固めだと思えた。それが…。まだ今後どうなるかはわからないが、一度は指揮を執るべきOB。現状を考えると、何のためにDCに迎え入れたのか、不思議でならない。

 本来はもっと早く監督になるべき人。なのになぜか現役を引退してからまだ一度もユニホームを着ていない。自他共に認める野球大好き人間。無名の高校生から一躍球界のスターにまで登り詰めた努力家。連日ユニホームを泥だらけにして野球に取り組んできた。己に厳しく、妥協を許さない強い精神力の持ち主。プレッシャーに強いところは何度となく見せつけられた。強靱な体と精神力。阪神ファンが待ちわびている、“強い体質”に改善する力を持った男だ。

 チームの活性化は…。若手の成長にある。要するに新戦力が活性になる。2年間ファームを中心に、豊富な経験からくる卓越した理論をかみ砕いて、若手にわかりやすく説明しながら指導してきた。ジョークあり、雑談あり、野球の話ありでコミュニケーションはよく図っている、また、鳴尾浜球場で行われているウエスタン・リーグでは、教え子がホームランでも打とうものなら我が事のように喜び、本部席からベンチまで、いそいそと足早に歩みを進めて行って声をかけてくる。若手と一体となった指導。その信望は厚い。

 今年も若手にとって来季を占う登竜門のひとつ、フェニックス・リーグが5日から宮崎で開催されている。12球団のファームが集結して繰り広げられる試合。基本的にはウエスタンとイースタンの対戦となる。お互い、他リーグの実力が把握できてなかなかの好評。22日間で公式には18試合組まれているが、ゲームのない日には練習試合が入っていて、選手にとっては過酷な3週間。古屋監督がいう「野球漬けになる」毎日だろうが、今季は掛布DCも参加する。しごきのターゲットを聞いてみると「北條、横田、陽川」3選手の名前をあげた。

 地獄の3週間、同DCは「やっぱりタイガースは長打が不足していますから、ホームランを打てるバッターを徹底して鍛えていきますよ」チーム状況を知ったうえで指導にあたる。この中の一人でもいい。1軍で活躍できるだけの力をつけてくれるならチームの活性化に繋がる。フェニックスにおける3選手のテーマをひと言ずつ聞いてみた。北條「1打席1打席内容のある打席にすること。たとえ凡打であっても納得のいく打席を心掛けてきます」何かをつかもうとする意欲がうかがえる。横田は「3割と5発(ホームラン)です。フォームを自分のものにするのも大事ですが、結果にこだわりたいですね」気合十分。陽川「甘いストレートを確実にとらえられるようにすることです。いろいろ話を聞いて、それを生かせるようにしたいです」目は輝いていた。コーナーの中身が本来のものから少々ずれはしたが、掛布雅之といえば“ミスターT”の一人である。一度は絶対に指揮を執るべき人物であり、絶対に執らせるべき人物なのだ。

(今シーズンの連載は今回で終了です。ご愛読ありがとうございました。)