鳴尾浜球場に活気が戻った。気合のはいった選手の声。監督、コーチの叱咤、激励。バッティング練習での打球音。3日間ほどのオールスター休みの期間中は閑散としていたグラウンドも、この日(7月16日)から後半戦(7月19日)を迎えるための練習が行われ私も足を運んでみた。若手中心のファーム。陽川、横田らの動きからは後半にかける意気込みがうかがえた。練習前の掛布監督の訓示の中に「悔いを残すな」のひと言があった。確かに「ああしておけばよかった。こうしておけばよかった」と気がついてもあとの祭り。選手は今を頑張るしかない。ファームとはいえ、まずはチームの立て直しにひと役買いたい。同監督の打つ手は-。

 チーム(1軍)の現状を踏まえての方針だ。「徹底的に勝ちにこだわってみようと思う」個人タイトルであっても現在狙える位置にいる選手には、狙いにいかせる」ことを考えている。その意図は…。

 少々横道にそれる。今年の阪神。1、2軍監督が同時に交代。超変革のスローガンを掲げて、ひ弱なチームから、勝負時に力を出せる強く、頼もしいチームへとカラーを一変してスタート。開幕当初から思い切った手を打ってきた。新人の高山を1番に、初めて1軍を経験する横田をいきなり2番に起用。得点力を大きく左右する下位打線の6番には、チームで最も安定した力を持つ鳥谷を置き。キャッチャーは経験の浅い岡崎がマスクをかぶった。勝負は手さぐり状態。選手を信じるしかないが、起用する側の首脳陣はさぞや不安だったはず。OBの一人としては、まさしく超変革。奇襲攻撃とも思えたが、当初はわずかながらでも頼もしいチームへのきざしは見え始めた。

 結果は現状がすべてを物語っているが、1軍に昇格した選手は即スタメンで起用するなど、はじめのうちはファームにもいい影響を与えていた。「4番(打順)の重みは1軍に昇格した時に役に立つ」という監督の意向に添った方針は、まずウエスタンの開幕から4番を打っていた江越が昇格するなりホームランを連発するなどで先陣を切り、続いて4番に座っていた陽川が昇格して活躍した。そのあともタイプではないものの、これまた4番の上本が1軍へ復帰した。一時は、事が万事いい方向へ回転していたが、現時点でチームを見渡すと結局何も残っていないではないか。さみしい限りである。

 「野球は勝負事ですから、やはり勝つ事が大事なんですよ。勝った試合の方が今後の試合に参考になることは多いと思いますし、勝因などをよく考えれば何か大事なこともわかるはず。勝った喜びも味わえるしね。それにリーグ優勝もまだわずかですが可能性は残っています。チャンスがある限りは挑戦するのは当然ですし、後半戦はもっと、もっと勝つことにこだわっていこうと思っています。それとタイトルですね。陽川、横田なんかにはまだチャンスはありますし、タイトルを獲得する過程で受ける精神的なプレッシャーもいい体験になります。今後のプロ野球生活にもプラスになるはずです」

 掛布監督である。選手の育成方針をこう説明してくれたが、全試合を4番バッターで出場してチームを日本一に導いた人。タイトルも獲得している。その過程で受けた厳しいプレッシャーも経験した。そして、そのあとに味わう計り知れない喜びも体験した人。だから、自分が歩いてきた道を選んだのだろう。アップに始まりキャッチボール。守備練習、バッティング練習と進む。見守る監督の目は厳しい。すべては1軍ありきだが、その活性化を担うのはファームだ。監督の話を聞いたあと、すぐさま陽川、横田にタイトルの話題を向けようとしたが、若い2人だ、今やることだけで精一杯、余裕などあろうはずがない。ましてやタイトルなんて考えているはずがない。逆にプレッシャーをかけてしまう。あえて聞くのをやめた。果たして1軍の手助けはできるか…。チームは厳しい状況にあるのは確かだが、彼らがタイトルを獲るだけの大活躍をして1軍に上がれば可能性はある。

【本間勝】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「鳴尾浜通信」)