チーム作りの原点はファームである。若手の育成。1軍戦力のレベルアップ、調整。実力の伴わない選手が主体の集団。指導は各個によってさまざま。我慢と今季のいる仕事だが、基本は1軍の戦力。2軍戦の勝敗にはあまりこだわらないというが、選手を育てていく過程を考えた場合、技術の向上とか状況判断等を養うためには、勝ちゲームの方がひとつ、ひとつのプレーそのものも勉強になる。それだけではない。ひのき舞台で活躍していく上で、一番大事な財産となる自信につながるからだ。勝つことが何よりのプラス材料になることは間違いない。

 今シーズンのウエスタン・リーグで、開幕から着実に勝ち星を積み重ね、いい形でペナントレースを進めているのが中日である。7月25日現在の成績が77試合を消化して46勝28敗3分け。勝率・622でトップを走っている。チームを率いる指揮官は、あの“ガッツ”こと球界のスター選手だった、小笠原道大監督である。日本ハムを皮切りに、巨人、中日で中心選手として全力プレー。力強い“元祖フルスイング”のバッティングでファンを魅了した人。現役時代には優勝を経験した。首位打者等数々のタイトルも獲得して今季から指揮を執っている。

 試合前の練習では精力的に動いている。打撃ケージの後ろで、選手にアドバイスをしていたかと思えば、外野ノックでの返球を捕る手伝いをしたり、バックネット前で、バントの練習をする選手がいれば、ピッチャーを買って出る。まわりの状況を見渡しながら、自ら進んで練習の手助けをしているところが、いかにも新人監督らしくて好感が持てる。

 今回の対阪神3連戦は、いつもの鳴尾浜球場ではなく、甲子園球場で行われた。やはり中日は強い。結果は3-0。4-4。6-4で2勝1分け。勝率をさらに伸ばした。内容は3試合すべて先手を取り、主導権を握った展開。3戦目など初回から四球で出塁した先頭打者が、投手からのけん制死でいったんは走者がいなくなったものの果敢に攻撃。4番高橋が左中間へ先制の2点二塁打を放つと、7番野本が右中間へ2ランホーマー。早々と試合を決めた。

 小笠原監督は「そうですねえ。昨年10月のフェニックス・リーグからファームを担当していますが、僕は別に“コレ”ということはしていません。選手達がみんなよく頑張ってくれているおかげです」と笑いながら語っていたが、そんなことあろうはずがない。現に、各選手がレベルアップしてこその成績を残している。

 レベルアップ-。スタメンに、今季1軍を経験している選手が何人も並んでいるのがその証拠。谷、溝脇、野本など他にもいるが、中にはシーズン当初はファームにいて今や、1軍に定着している選手もいる。福田、堂上らが代表するが、同監督に言わせると「ほんの少しぐらいのレベルアップは認めますが、1軍レベルから考えますとまだ、まだ物足りませんね。体力面、技術面などもっと、もっと頑張ってほしいです」とのこと。さすが一流を極めた人。少々のことでは満足しない。ちなみに、昨年の成績に目を通してみると、104試合を消化して41勝56敗7分け。勝率・423で5チーム中、4位だった。

 好調の持続は“確固不抜”といおうか、今年の中日には確固たる小笠原監督の方針が注入されている。それは「勝つこと、ですね。といっても、もちろん試合には勝たないといけませんが、ゲームに勝つだけではなく、調子が悪くなって、くじけそうになっている時の自分に勝つとか。競い合っている相手に勝つとか、練習量なども含めてすべての面で勝つことを前提に考えた行動を徹底しています」選手が成長していく上での何事にも通ずる発想だ。思い通りにならないのが野球だが、この方針が浸透するかどうかは大きなカギ。指導は我慢と根気だ。

【本間勝】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「鳴尾浜通信」)