鳴尾浜球場で8月8日付の新聞でウエスタン・リーグ打撃10傑を見て驚いた。同リーグのトップを走っているのは広島だと知っていたが、打撃ベスト10にカープの若手4人が名を連ねている。1位が坂倉、2位がメヒア、3位庄司。そして、9位が桑原である。こんなケースはあまり見たことがない。偶然にも、この日のカードが阪神-広島戦。幸運にも成長株の若手を見る機会が目の前に訪れた。

 3連戦の初戦は4回降雨でノーゲーム。3試合目は岡山・倉敷での試合。残念ながら鳴尾浜でのゲームは真ん中の2戦目、1試合だけとなった。どんなバッティングを見せてくれるか。4選手に注目したが各選手、ごく当たり前のように打ちまくり、広島が3ホーマーを含む18安打を放って10-2で大勝した。さすがだ。トップ10に入っている選手はきっちり自分の仕事をしている。

 打撃10傑の4人はこうだ。1番9位の桑原は2安打、3位の庄司は打点付きの1安打。4番で2位のメヒアはなんと4安打。5番坂倉は2安打の1打点。坂倉の場合は前日ノーゲームになった試合で1ホーマー、3打点を棒に振っていたが、気持ちの面でも沈むことなく結果を残した。

 当たり前のことを当たり前にこなすのがプロのワザ。練習、努力には定評のある広島。ベスト10の4人、それもトップから3選手が並ぶ珍しいというより、すごいという表現がピッタリの現状。何か特別な手を打っているのではないか、と思い試合後、倉敷への移動という忙しい中、水本監督にアタックしてみた。「そんな特別なことはしていませんが、1軍首脳陣との話し合いの中で『三振を少なくしよう』の方針を打ち出して、今も実行しています。三振は野球につきものですから『三振するな』と強く押しつけてしまうとプレッシャーになりますので、気持ちの上でも、バッティングの面でも小さくならないように、思い切りバットを振っての三振はOKです」。三振を少なくする方針の効果だろうか…。結果は出ているが、この世界には「三振を怖がるな」の言い伝えもある。私の中には少々の疑問符も…。

 確かにイースタン、ウエスタン両リーグを合わせても三振が1番少ないのは広島の484個(8月9日現在)、1番多いチームと比べてみると300個近くの差がある。ここでも効果の証しが出ている。

 広島には気になる事実がある。高卒の新人だ。公式戦は半ばを通過したが、試合に出続けている。規定打席にも達している。普通高卒ルーキーは、1年間、野球漬けの経験がないため、体力、精神力が伴わない選手が多いのが通例だ。どこかで壁にぶち当たって調子を崩したりするが、打率は3割をキープ。ウエスタン・リーグの首位打者争いをしているのだから大したもの。坂倉将吾捕手(19)。前にも1度登場してもらったが、水本監督「頭はいいし、性格も前向き。彼の場合、キャンプ(2月)で見た時点で、起用し続けていくことを決めていました。守りはまだまだ物足りない面はありますが、バッティングは素晴らしい」太鼓判を押した。

 毎日が野球漬け。高校時代も連日練習はしてきたが、これだけ、ここまで野球に没頭してきたことは過去にない。当然疲れはたまる。体が自分の思うように動かない時期もあったに違いない。「やっぱり疲れました。きついけど、そんなこと言ってる場合ではないでしょう。5月ごろが一番きつかったですかね」。一般企業の新入社員と同じ“五月病”? にかかったようだが、自分との戦いに勝って現在がある。「はじめのうちは室内でバッティング練習をしていましたが、いまはバットスイングだけにしています。最近は素振りで成績が上がってきましたので、スイングだけにしています。守りの方もやるべきことはいっぱいありますが、バッティングもおろそかにしたくないです。もっと、もっと上を見てやっていきたいです」は坂倉。いろいろ工夫をしている。今後も進化し続ける選手だ。

 自前で育てあげた選手。理想のチーム作り。広島はファームのみにあらず、1軍でも4人ないし5人が打撃ベスト10に名を連ねている。チーム方針の効果か。広島の強さを象徴する方針だろう。

【本間勝】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「鳴尾浜通信」)