元ロッテの里崎智也氏(野球評論家)の「ウェブ特別評論」を掲載中。13回目は、31日から始まる交流戦の見どころ(下)「交流戦はなぜパが強いのか」です。

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 レギュラーシーズンでは2~3週間でありえない、最下位から1位浮上の“下克上”があり得るのが交流戦だ。

 レギュラーシーズンでは当然だが同リーグ同士の対戦で6球団が3勝3敗に分かれ、順位変動の幅が少ない。3連戦で2勝1敗でいったところで、同カードでは1ゲームしか差は縮まらず、上位と2~3ゲーム差と思っても1カ月かかってしまうケースがあるのはそれが要因。ところが、交流戦では、例えばセ・リーグ球団全滅の0勝6敗の可能性がある。

 はっきり言うとセ、パのリーグごとの団体戦的な意味での勝ち越しは重要ではない。 

 所属リーグで自分のチームだけが勝ち、同リーグの他球団は負けることが最高の結果なのだ。俗に言う「1人勝ち」がオイシイ。交流戦18試合で1チームが18勝0敗、同リーグの他5球団が0勝18敗が数字上あり得るから恐ろしい。

 交流戦が終わるまで順位変動は気を抜けない。

 2005年から始まった交流戦で、過去の歴代優勝チームはパ・リーグの9度(ソフトバンク5度、ロッテ2度、日本ハム1度、オリックス1度)セ・リーグの2度(いずれも巨人)。ちなみに昨年の交流戦は1~5位までパ球団(ソ、日、西、楽、ロ)だったが、2010年の1~6位までパ球団独占は印象的だった。

 では、なぜパが強くてセが弱いのか。考えてみるとパはDHありきの野手9人でのチーム構成、セはDHなしで野手8人のチーム構成で、長年染みついたチーム作り(構成)が違う。

 具体的に言うと、セ球団がDHありで打線を組もうとする場合。野手8人中、1番守れない選手がDHになるか、代打の1番手をDHに起用するケースが多い。

 ヤクルトのDHありの布陣を想定してみよう。通常、左翼のバレンティンがDH、外野には鵜久森、上田、比屋根あたりが入るだろう。守備力はアップするが、9人トータルで考えると打線はアップになっていない。

 悩んだ末、DHを9番に入れるセの球団もあるだろうが、戦力的にはアップしているとは思えない。

 逆に投手が打席に立つセ・リーグ方式の場合、パ・リーグ球団はどうするか。

 ロッテをシミュレーションしてみよう。通常DHのデスパイネだが、打線から外す選択肢は考えにくい。デスパイネを左翼に。左翼の角中を右翼に。右翼の清田を中堅に据える布陣が考えられる。外れるのは通常センターを守る加藤か岡田だろう。

 ロッテだけではなく、ソフトバンクの場合もしかり。DHの長谷川のけがの具合が万全なら左右どちらかの外野ポジションに据え、柳田、中村晃の3選手で外野布陣を組むだろうし、そうでなくても福田ら控えの実力も順調に育ってきている。長谷川は代打1番手というオプションもあり、余力がありそうだ。

 基本、打力が足りない選手を外す。打線重視で組むのがパリーグ方式。だから攻撃面で破壊力が落ちず、セ・リーグを交流戦成績で上回るのではないかと考えている。

 巨人が交流戦を制した2012年を見てみた。DHありの場合、高橋由伸選手と谷佳知選手を打線に組み込む重量打線を編成。指名打者の枠はその2人でおもに使用し守備の負担を軽減していた。同14年はセペダを中軸に据え、外野は長野、セペダ、アンダーソン、高橋由、亀井、二塁手片岡の控えに井端と充実した戦力があったからこそ、パの打力重視の布陣で交流戦を制したと見た。

 パに懸念される点はどこかないだろうか。唯一挙げるなら日ごろ打席に立たない、パの投手が打席に立つケース。打席経験のあるセの投手と比べ、セ主催試合では不利ではないか、という声もあるだろう。

 ただ、セの投手で犠打も苦手、ヒットも期待できない投手もいる。逆に打席に立たないパの投手でも、過去、ロッテでも小林宏之(現BC武蔵監督)、現DeNAの久保康友など、野手顔負けの打撃センスを誇る投手もいた。アマチュア時代に、エースで4番だった投手もいる。その点はマイナス要素にはならないと考えている。

 最後にもう1点。レギュラーシーズンで北は北海道から南は九州・福岡まで、あちこち飛行機移動も多いパ球団だが、セ球団は西に移動しても広島が最長。パリーグの選手にとっては移動が楽に感じられると思う。

 ロッテの今季交流戦で見ると西は、岐阜(対中日)までが最長移動。選手にとって新幹線移動で待ち時間が少ないことは肉体面、精神面でもプラスとなる。

 さまざまな事情を勘案して今年も交流戦はパ・リーグ優位かと思うが、セ1位の打撃好調広島はチーム打率2割7分3厘でトップ(5月29日現在)。それでも過去交流戦通算成績では11位(ちなみに12位はDeNA)と嫌なデータもある。DHにはエルドレッドの起用が予想されるが、パの破壊力にも引けを取らない広島が交流戦の悪夢を払しょくできるかにも注目だ。

 ◆里崎智也(さとざき・ともや)1976年(昭51)5月20日、徳島県生まれ。鳴門工(現鳴門渦潮)-帝京大を経て98年にロッテを逆指名しドラフト2位で入団。06年第1回WBCでは優勝した王ジャパンの正捕手として活躍。08年北京五輪出場。06、07年ベストナインとゴールデングラブ賞。オールスター出場7度。05、09年盗塁阻止率リーグ1位。2014年のシーズン限りで引退。実働15年で通算1089試合、3476打数890安打(打率2割5分6厘)、108本塁打、458打点。現役時代は175センチ、94キロ。右投げ右打ち。

(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「サトのガチ話」)