元ロッテの里崎智也氏(野球評論家)の「ウェブ特別評論」を掲載中。28回目は「4タイプに分けられるFA選手(下)」です。

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<FA選手(上)のあらすじ>

 FA権を行使した選手は基本、以下の4タイプに分けられると思われ、移籍先を選ぶ基準は選手で異なる。

(1)夢追い型

(2)出場機会優先型

(3)好待遇、高額年俸を求める金銭追求型

(4)チーム愛最優先型

 球団によってはFA宣言した場合、残留を認めない球団、宣言残留ありだがマネーゲームには参戦せず条件提示は変えない球団、宣言残留ありの球団、など対応はさまざま。球団ごとにいろんなアプローチがあっていいのだが、FA宣言前に他球団の話を聞けるような制度は個人的には「甘え」ではないかと思う。他球団の“見積もり”を聞き、待遇面や金額提示が低かったから「やっぱり残ります」という話が通るのか否か、という内容だった。

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 FA選手の年俸の印象について、みなさんどう思っているだろう。多くの人が持つイメージは「FA移籍=年俸アップ」ではないだろうか。

 FAで多少、色が付いた分を差し引いたとしても、正当な能力評価とは隔たりが生まれるのではないかと思う。

 もちろん、FA宣言する選手にもリスクはある。宣言残留を認めない球団で、退路を断ってFA宣言した場合、獲得してくれる球団が現れなければ任意引退となってしまう。

 しかし、一般社会のサラリーマンだって良く知っている。自分を高く買ってくれそうな企業の話を聞いた後、金額面で折り合わず、やっぱり残留と古巣企業に戻れるほど世の中甘くないことを。

 FA選手も同様だと思う。選手の自由な権利で行使するか否かは本人次第だ。任意引退のリスク部分を球団に「甘え」として、押しつけてはいけない。

 西武栗山は海外FA権を行使して残留を決めた。決断理由は「これからもライオンズで野球をやりたい。純粋にそれだけ。(FA権を)残すことは重要ではなかった」と説明。(4)タイプに該当するだろう。

 FA権を持っていればいつ移籍するかと不安を球団に与えるため、FA行使した上で残留、といういわば「一生西武」という忠誠心を球団に態度で示し“契り”をかわした。

 ちなみに僕の場合は結果的に栗山と同じ(4)だった。

 国内FA権を2010年10月に、海外FA権を翌11年11月に取得したが、特に行使もせず残留した。以前のコラムでも書いたが、ロッテでプレーして優勝することに価値がある。強いチームで優勝するより、万年Bクラス時代もあり、山あり谷ありのロッテで優勝するからこそ泣けるという理由が一番だった。もちろん年俸面でも文句のない評価をいただいた。

 岸や糸井らの動向は決まったが、他のFA選手たちの動向次第で、来季のプロ野球の勢力図も大きく変わる。球団も今オフだけでなく、来季を先取りしてFA権再取得の選手たちにも注意を払っているだろう。球団側は、複数年契約などあの手この手で引き留めを考えたり、さらなる飛躍を考える選手は、単年契約を望んでいたりと、両者の思惑が複雑に絡み合う。そんな駆け引きからも目が離せない。

 阪神金本監督やソフトバンク内川は、FA移籍してファンからも球団からも愛された成功事例だと思う。FA権はもろ刃の剣。移籍先で評価を得られなかったFA選手は引退後、球界から永久に声が掛からない可能性だってある。

 さらに、俯瞰(ふかん)して見れば、FAでマネーゲームとなれば、2004年に起きた球団再編騒動の波を再度受けかねない。選手、球団の両者が避けなければならない本当のFAリスクとは、球界の消滅や衰退なのかも知れない。

 ◆里崎智也(さとざき・ともや)1976年(昭51)5月20日、徳島県生まれ。鳴門工(現鳴門渦潮)-帝京大を経て98年にロッテを逆指名しドラフト2位で入団。06年第1回WBCでは優勝した王ジャパンの正捕手として活躍。08年北京五輪出場。06、07年ベストナインとゴールデングラブ賞。オールスター出場7度。05、09年盗塁阻止率リーグ1位。2014年のシーズン限りで引退。実働15年で通算1089試合、3476打数890安打(打率2割5分6厘)、108本塁打、458打点。現役時代は175センチ、94キロ。右投げ右打ち。

(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「サトのガチ話」)