1985年4月17日、甲子園でのバックスクリーン3連発…。バースが打ち、掛布が打った。直後の打席、大騒ぎの中、岡田彰布は実に冷静だった。

「バース、カケさんに打たれたあと、槙原は何を投げてくるか。必ずスライダーがくる。そう確信していた」。岡田は振り返っている。狙い球を絞り、その通りの甘めの球がきた。打って当然とばかり、岡田が狙い打った打球は、センターのクロマティが追うのをあきらめ、後ろ向きで見送る完璧なアーチとなった。

岡田の3本目が最も美しい本塁打として語り継がれているが、あれから39年。同じ舞台が今年、用意された。阪神ファンが酔った3連発はなかったけど、3連打で2点先制。これを投手陣と守備陣が粘り強く守り、記念日のG倒となった。

そんなゲーム、気になるシーンがあった。2点を先制した次の回。4回に先頭の大山が四球で出た。流れ的には追加点のチャンス。ここで打席は佐藤輝。当然、ベンチの岡田は自由に打たせる。39年前、5番を打った監督が、現在の5番に何を求めるのか。ところがカウントが3-2になったところで、走者の大山が走った。

ギャンブル的な要素が満載の作戦だったが、とにもかくにも佐藤輝がバットに当てることにかけたのだ。しかし、ベンチの意図、ベンチの期待とは逆の結果に。抜いた変化球に対応できずに空振り三振。大山も刺されての三振ゲッツー。その時、ベンチの中がテレビに映し出された。

岡田は顔をしかめた。首を動かしながら、無表情に戻った。この三振は今季19個目。大山と並びチーム最多となった。

明らかに岡田はガックリとなっていた。状態の上がらぬ5番打者に何とか浮上のきっかけを、と作戦で動かすことで活路を見いだそうとした。普通なら、これだけ三振の多いバッターだ。走者を動かすことは危険であるのはわかっていても、岡田はあえての戦術を用いた。それでも通じなかった。

苦しい戦いの中、借金1で踏みとどまっている(4月17日現在)。これから先、底から脱するだけだとは思うが、やはり上昇へのキモになるのは佐藤輝、この5番バッターになる。大山に少しではあるが、復調の兆しが見え始めた。その後ろを打つ佐藤輝には、その兆しが見えない。とにかくボール球に手を出し過ぎる。特に低めのボール球にバットが止まらない。

この傾向は相手バッテリーに丸わかりとなり、ずっと同じ攻めを受けている。思い切り振る能力がある…ともてはやされた入団時と違い、佐藤輝もキャリアを積んできた。相手のデータ分析を上回る対応力が求められるのに、打席に入れば力任せに走る。

良くも悪くも佐藤輝はやはり目立つ。いまは悪い方で目立ち過ぎている。17日の三振併殺に首をかしげた岡田…。場合によってはカンフル剤として、打順を下げたり、先発を外したり。そんなことまで想像させてしまう現状である。【内匠宏幸】(敬称略)