阪神対巨人 7回裏阪神2死一、三塁、右越えに1号3点本塁打を放ちガッツポーズする木浪(撮影・上田博志)
阪神対巨人 7回裏阪神2死一、三塁、右越えに1号3点本塁打を放ちガッツポーズする木浪(撮影・上田博志)

思わず「よっしゃ!」と声を上げてしまった。7回に飛び出した木浪聖也のプロ1号3ラン。守りの乱れもあって巨人に完敗。そんな中、相手エース菅野智之を降板させたこの本塁打は、もっとも虎党が沸いた瞬間だった。

試合前、木浪に少しだけ声を掛けた。きのうは結構、怒られた? 苦笑いを浮かべながら無言でうなずいた木浪はその後に「これからです!」。気合を感じたし、気持ちのいい反応だった。

前日18日のヤクルト戦(神宮)。「8番一塁」でスタメン出場していた木浪は3回、1死一、三塁でまわった2打席目で代打を送られた。試合後、指揮官・矢野燿大は虎番キャップたちにこんな話をした。「俺、やることやらん選手とか、あきらめるような選手を使いたくない」。

木浪は1回二、三塁の打席でフォークを空振り三振。捕手が取り損ねていたが一塁へ走らず、振り逃げを狙わなかった。そのことに矢野は「やることやらん選手」という表現で怒りを示したのだ。

これはかなりめずらしいことだと思う。矢野は監督として対話路線、ソフト・ムードを取り、選手を批判することはこれまでほとんどなかった。それが初めて見せたと言っていい厳しさ。思わず中日、そして阪神で矢野を指導してきた闘将・星野仙一氏のDNAを感じた。

そこで思う。星野なら、おそらく、この日の巨人戦、木浪をスタメンで起用したのではないか。「ミスは自分で取り戻してこんかいっ!」。そんな感じで背中をたたいて送り出したと思う。厳しさと愛情と。それが闘将最大の魅力だった。

メンタル面だけではない。木浪と近本光司のルーキー2人は菅野と対戦していない。これまで菅野に抑え込まれる阪神打線はいやというほど見てきたが2人は打席に立っていない。新しい指揮官の下、新たな姿で立ち向かう阪神にとって欠かせない2人ではないか。そう思っていた。

しかしスタメンに2人の名前はなかった。途中から出て、近本に守備のミスはあったがそれぞれバットで見せた。特に木浪。あの本塁打を見て思わず熱くなってしまった。

落ちるレベルの投手が打てて一線級は打てないと阪神打線はよく言われる。特に菅野だ。だが、これはある意味、仕方がない。菅野の今季年俸は6億5000万円だという。そんな投手は簡単に攻略できない。作戦というより、持てる力をフルに使い、心身とも全力でぶつかっていかなければ勝てない。ミスを本塁打で取り返した木浪を見て、そう思う。(敬称略)

阪神対巨人 7回裏阪神2死一、三塁、右越え3点本塁打の木浪(中央)をベンチ前で迎える矢野監督(同左)(撮影・松本俊)
阪神対巨人 7回裏阪神2死一、三塁、右越え3点本塁打の木浪(中央)をベンチ前で迎える矢野監督(同左)(撮影・松本俊)