中学硬式野球団体の1つ「リトルシニア」は現在、静岡県内で16チームが活動し、県内外に毎年多くの高校球児を輩出している。そんな中で静岡裾野シニア出身で神奈川・桐蔭学園の田畑秀也二塁手(3年)が新日本石油ENEOSに入社することが23日までに分かった。俊足巧打の大型二塁手として、今秋のプロ野球ドラフト会議の“上位指名の隠し玉”として各球団がマークしていたが、さらなる実力アップを目指してプロ入りを見送り、社会人野球の名門を進路先に選んだ。

 今夏の神奈川県大会は「田畑詣で」のスカウトであふれた。「野手の動きを見て転がすなんて、まるでイチローみたいだ」。準決勝で見せた一、二塁間へのセーフティーバントに、中日の石井昭男スカウトがうなった。一塁到達タイムは本家イチロー級の3秒80。静岡裾野シニアの南政隆コーチが「小学生の時から抜群だった」という俊足は、プロが認めるまでになった。スピードに加え、2打席連続で横浜スタジアムの右翼席へアーチをかけた。石井スカウトは「うちは立浪が引退するしね」とミスター・ドラゴンズにその姿をだぶらせた。前列には巨人スカウトが5人。1人の高校生を一挙5人で視察するなど、通常はありえない。

 決勝で敗れて甲子園は逃したが、7試合18安打で打率6割2分9厘、4本塁打。決勝でも4安打。相手の横浜隼人・水谷哲也監督は「うちの今岡のシンカーは筒香でも打てなかった」と、横浜にドラフト1位指名された横浜高・筒香嘉智内野手と比較した。

 巨人高橋由らを育てた桐蔭学園・土屋恵三郎監督は「ヨシノブの方がパワーと柔軟性は上。田畑はスイングで運ぶ」と、センスの高さを認めた。50メートル5秒8、ベース1周14秒14はプロでも上位の数字。上位指名の可能性の高かった逸材でも、田畑はプロ志望届を提出せず、日本石油ENEOS入りを選んだ。

 「アマチュアのトップでプロに入り、家族に恩返ししたい」との思いがある。NO・1主義は、教室一番乗りに燃えた小学校時代から一貫している。15歳で故郷を離れた理由も「桐蔭の練習設備が日本一だから」。社会人の名門を選んだのは、3年後のトップ入団を目指すからだ。

 その実力はすでに地元を動かしている。今夏、故郷・伊豆市八幡(はつま)地区から約50人の大応援団が貸し切りバスで神奈川大会へ駆けつけた。「地元の応援にも必ず応えたいんです」。“伊豆っ子”田畑は、夢をかなえるべく走りを加速させる。【金子真仁】