半世紀前の再現だ。第85回選抜高校野球大会(3月22日から13日間、甲子園)の出場校を決める選考委員会が25日、大阪市内で開かれ、古豪・済々黌(熊本)が、1958年(昭33)以来55年ぶりのセンバツ出場を決めた。前回はエース左腕の城戸博を擁し、王貞治(ソフトバンク球団会長)の早実を破るなど、快進撃で見事に優勝。今回もプロ注目左腕の大竹耕太郎(2年)を軸に全国制覇を目指す。

 放り投げた白い帽子には55年分の思いが詰まっていた。済々黌の池田満頼監督(40)はしみじみ言う。「半世紀以上、長いですね」。そして55年前の主将で、元監督の末次義久氏(72)は「仲間が2人亡くなったよ。そんな時間だ、55年は」と言った。

 昨夏に続く2季連続の甲子園だが、センバツへの道のりは遠かった。しかし、55年前にあるのは栄光。伏兵的存在が、あれよあれよの快進撃で、熊本に初の優勝旗をもたらした。当時のエースが左腕の城戸。全5試合を1人で投げ抜き、優勝に導いた。その伝説に触発されたのが現エース。同じ左腕の大竹は「1人で投げ抜きたい」と宣言した。

 昨夏、初めて踏んだ甲子園のマウンドから成長した姿を見せる。2回戦の大阪桐蔭戦で、人生初の3発を浴び「まだまだ力不足を痛感した」。徹底的に走り込み、体幹を鍛えて昨秋の九州大会では自己最速138キロを更新する140キロをマークした。センバツに向けては、新球チェンジアップも習得中。「実戦で使えるようにしたい。球種があった方が、勝負の幅が広がる」。日本一の高い頂を見据え、取り組んできた。

 末次氏は「変化球の使い方が城戸だが、それ以外は大竹が上。城戸は完成されていたが、大竹はまだまだ伸びている。1、2回戦を勝てば本当におもしろいんじゃないか」と再現を期待する。大竹も「前回は先輩たちが優勝されている。自分たちも負けないようにしたい」と力強い。

 182センチの長身でしなやかな長い手足。昨夏はまだひ弱な印象だったが、センバツでブレークする可能性は十分にある。池田監督も「甲子園を経験したことで自信がかなり上がっている。体も大きくなって、球威も増した」とすくすく育つエースが頼もしい。先輩たちが成し遂げた快挙。伝統の力も加えて再現してみせる。【実藤健一】

 ◆済々黌55年前の初V

 1回戦で清水東を3-0、2回戦も新潟商を城戸が16三振奪の好投で4-0と2試合連続で完封勝ちした。準々決勝は王貞治を擁する早実と対戦。城戸が王から本塁打を浴びたが7-5で競り勝った。準決勝は熊本工との同県対決に5-2で勝利。決勝は中京商に7-1で快勝し、初優勝を飾った。城戸は5試合すべてを投げ抜き、計53三振を奪った。