<全国高校野球選手権:日本航空石川3-2明桜>◇15日◇2回戦

 「鉄腕」の熱い夏が終わった。明桜(秋田)が延長12回の激闘の末、日本航空石川に2-3でサヨナラ負け。初戦敗退を喫し、秋田県勢12年ぶりの夏1勝はならなかった。左腕エース二木健(3年)が、9安打11三振の力投で3失点(自責1)完投。味方の守りのミスで勝利は逃したが、愛する地元秋田を勇気づける166球の熱投だった。

 聖地に一礼したエースが白球を受け取った。大門丈太三塁手(3年)から「お前のおかげでここまで来れた」と、試合終了時に手にしていたボールを手渡された。ウイニングボールにも劣らない価値ある“ルーズボール”。二木は「負けても、みんなでここまで来た証し。後輩の今後のためにも、部室の見えやすいところに飾ります」と、大切に握り締めた。

 予想外の結末にも、涙はなかった。延長12回裏、無死一、三塁。二木は加賀竜太捕手(3年)のウエストボールの要求でスクイズを外す。飛び出した三塁走者を刺そうと加賀が三塁に送球も、ボールは左翼方向へ大きくそれた。サヨナラの走者が生還…。ぼうぜんとする加賀に、二木は「しょうがない。気にするな」と笑顔で声をかけた。

 全5試合で663球を投げた秋田大会同様、聖地でも頼もしかった。最速143キロの直球にカーブ、スクリューで三振の山を築く。5回に適時打を浴びて追いつかれたが、その後は立ち直った。県大会で無失策を誇ったチームが、最後はエラーで敗北。それでも二木は「思い切ってやった結果。二人三脚でやってきたみんなに、ありがとうと言いたい」と感謝した。

 秋田市内の学校グラウンドに練習見学に来た野球少年には積極的に話しかけ、正月には姉美幸さん(27)の長男で、おいの陸翔くん(3)とキャッチボールする。「地元の子どもたちの目標とされる選手になりたい」と、卒業後は地元社会人野球の強豪TDK(にかほ市)に入社する予定だ。

 「応援してくれた秋田のみなさんに申し訳ないです。今回の経験を生かして、上の世界でレベルを上げていきたい」(二木)。98年から続く秋田県勢夏の甲子園の連敗を止めることはできなかったが、鉄腕はこれからも地元のために投げ続ける。【由本裕貴】