<ヤンキース7-5エンゼルス>◇13日(日本時間14日)◇ヤンキースタジアム

 【ニューヨーク=大塚仁】エンゼルス松井秀喜外野手(35)が、敵地として初めて訪れたヤンキースタジアムで感動に包まれた。移籍後初のヤンキース戦に臨み、試合前に昨季のワールドシリーズ制覇を記念したチャンピオンリングを授与された。その際にヤ軍選手全員が松井のもとに駆け寄るサプライズもあり、さすがの松井も感極まった表情を隠せなかった。試合では5打数無安打に終わり、チームが敗れた上に最後の打者になる屈辱。特別な日は、打倒ヤンキースへの出発点にもなった。

 ヤ軍本拠地開幕戦の主役は敵のユニホームを着た松井だった。試合前の優勝リング授与式。最後に主将ジーターが受け取ると、球場の注目は三塁側ベンチで待機する松井に集まった。大型ビジョンに映し出される表情には、すでにこらえようのない笑みがこぼれていた。「ワールドシリーズMVP、ヒデキ・マツイ!」。アナウンスとともにベンチを飛び出すと、だれよりも大きな歓声に包まれた。

 リングをジラルディ監督から受け取り、満面の笑みを浮かべると今度はサプライズが待っていた。整列していたヤ軍メンバーが突然駆け寄ってきた。「1人1人あいさつしようと思ってたんですが、皆がああやって来てびっくりしました」。Aロッド、ポサダ、テシェイラら1人1人と抱擁を交わし、最後は親友ジーター。試合前だというのに、感極まった様子を隠しきれなかった。

 リングには旧友たちがトリックを仕掛けていた。最初に渡されたものは、ファンに配るための単なるレプリカ。数百万円の価値があると言われる本物は、試合開始前の整列の際になってようやく松井の手に届いた。すり替えの首謀者ジーターは「松井だったら面白がってくれたんじゃないか」と笑う。「後で(本物を)渡されるまで気づかなかった」と苦笑いの松井は、チームが変わっても愛され続けていた。

 それでも特別な瞬間はまだ終わらなかった。ヤンキースタジアムで初めて1回表の打席に立つと、4万9293人の観衆がスタンディングオベーションで迎えた。あまりの拍手と歓声に、いったん打席に入りかけた松井は打席を外してヘルメットを取って応えた。「感動しました。おそらく一生忘れない瞬間でしょう。最高の形で迎えてくれて幸せでした」。ブーイングも覚悟していた。だが自らの意思でヤンキースと決別した自分を、ニューヨークは温かく迎えてくれた。

 興奮冷めやらぬままに続いた試合は5打数無安打に終わった。ペティットには3度凡退し、9回2死で対戦したリベラにはカットボールにバットを折られて最後の打者となった。「古巣との対戦」という人生初の経験に完敗し「去年のチャンピオンチームですから、やはり強い。野球をやらせてもらえなかった」と脱帽した。試合後に出会ったヤ軍キャッシュマンGMには「元気で」と一言を送られた。夢のような瞬間が終わり、松井が打倒ヤンキースへと気持ちを切り替えた。