開幕虎狩り予行演習だ。復活を期す中日浅尾拓也投手(30)が阪神戦の8回から登板し、1イニングを3者凡退に抑えた。オープン戦好調な2番上本を144キロで空振り三振を奪うなど主軸を10球でピシャリ。現状では「勝利の方程式」に組み込まれているわけではないが、3年ぶり開幕1軍入りに向け、着実に前進した。

 全身の力が指先からボールに伝わる。キャンプから試行錯誤し続けた浅尾にとって待ちわびた感触がようやく戻った。「やりたいことが徐々にできている。今日初めてブルペンと試合のマウンドと一致した。こうしたらいいという自分で考えてきたことができつつある」。試合後に語った言葉からは喜びがにじみ出ていた。

 8回に上がったマウンドではいつも以上にリズミカルだった。先頭の2番上本をフルカウントまで追い込み、勝負球に選んだのは直球。オープン戦打率3位(3割6分7厘)の好調なバットが高めの143キロに空を切った。3番西岡も直球で左飛に、最後は大砲ゴメスを高めスライダーで遊直。最速は144キロだったが、キレのある直球はこれまでとはひと味違った。1イニングを3者凡退。わずか10球、あっという間に役目を終えた。

 感覚のズレが頭を悩ませた。「投手から捕手まで18・44メートルだけど、その間合いが遠く感じてしまう。遠回りして投げているように感じる」。ブルペンでは感じないズレが試合になると現れた。腕の振りは問題なし。原因は体重移動だった。リリースまでスムーズな動作をいかに実現するか。納得いくまで何度も投球を録画した映像を見返した。

 オープン戦でマスクをかぶり直接ボールを受けるなど状態をチェックしてきた谷繁兼任監督もうれしそうだった。「3人で抑えた。いいんじゃないですか? 中継ぎはゼロで抑えて帰ってくればいいんですよ」。そう言って笑った。

 ポジションは約束されていない。8回は又吉、9回は福谷。これが現時点の「勝利の方程式」プランだ。それでも浅尾の顔は明るい。「ここまで悩みながらやってきたんで、これでようやく他の中継ぎと争えるくらいになった」。昨季は右肘を痛め、一昨年は右肩痛が影響して開幕2軍だった。これで戦える-。確かな手応えが今年はある。【桝井聡】

<浅尾苦闘の過去3年>

 ◆12年 MVPの前年から一転、不振続きで5月に出場選手登録抹消。右肩関節腱板(けんばん)損傷と診断。9月に復帰。29試合で15ホールド、防御率1・50。

 ◆13年 肩痛の影響が尾を引いて開幕前のWBC日本代表から落選。7月に1軍初昇格。34試合で22ホールド、防御率1・47。

 ◆14年 開幕前に右肘痛発症で出遅れ。6戦連続失点するなど絶不調で8月に抹消。22試合で8ホールド、防御率6・16。