東京ドームに快音が6度、響いた。昨年3月30日に激突し、ともに負傷した阪神西岡剛内野手(30)が4安打、福留孝介外野手(37)も2安打で、悪夢に完全に別れを告げた。2年ぶり4安打の西岡は2戦連続の猛打賞で打率4割2分9厘。2得点した4回には目の前のゴロで二塁から三塁を陥れる「神業走塁」でも巨人をかく乱した。

 走者西岡の目には誰もいない三塁ベースが見えていた。1点リードの4回無死二塁。4番ゴメスは三遊間へゴロを放った。巨人のサード村田が自らの方に向かいながら捕球する。位置は走路の少し後ろだった。西岡は意を決して三塁に向かった。その姿に一瞬目を奪われた村田の一塁送球が遅れる。1死二塁だと思われた状況を、鮮やかな1プレーで無死一、三塁に変えた。

 「常にいろいろ想定している。三遊間のボテボテだったらいこう、とかね」

 とっさの場面で動いた。今季初の伝統の一戦。そんな重圧は関係なかった。勝負をかけた走塁は、7番梅野の2点二塁打で報われた。1つの走塁が勝敗を分けた。

 「去年は(3月)30日にケガをして、今は入院していた。ユニホームを着られることに幸せを感じますね」

 約1年前、3月30日東京ドーム。福留との激突で選手生命さえ危ぶまれる大けがを負った。因縁の地、因縁の相手への思いは胸中に宿る。それはバットに乗せた。1回は2者凡退の後に左前打。4回にも先頭で右翼亀井の頭上を越す二塁打を放った。右でも、左でも快音が止まらない。終わってみれば2試合連続の猛打賞、2年ぶり4安打の固め打ちだ。

 「もちろん勝てたことが一番です。連敗は良くないので今日取れたことは大きい。(状態は)結果を見てもらったらわかるんじゃないですかね」

 足で、バットで、西岡はチームの先頭をひた走った。ゴメスとマートンの中軸が不振でも、今の打線には「3番西岡」がいる。オープン戦で不安視された打撃もリーグ2位となる打率4割2分9厘。目の前の巨人を倒す。そのスイッチを西岡は恐れることなく押し切った。【松本航】

 ▼西岡の1試合4安打は、13年5月11日ヤクルト戦(松山)5安打以来、阪神移籍後2度目。プロ通算17度目。ツインズ在籍の11~12年では、1試合3安打が最多(1度)。

 ◆14年3月30日の悪夢 開幕3戦目の巨人戦(東京ドーム)2回の守備で、巨人大竹の打球を二塁手西岡が背走して追った。前進してきた右翼手福留と顔面から激突。後頭部を地面に強打した。あおむけのままグラウンドに横たわり、球場内に入り込んだ救急車で搬送された。診断は尾骨骨折と左肩鎖関節の脱臼。1軍戦復帰は、約3カ月後の6月27日中日戦。昨季の公式戦出場は24試合にとどまった。