持ち前の平常心が一瞬、崩れた。日本ハムの勝負師が、小躍りした。両腕を腹の脇から突き出し歓喜した。ベテラン田中賢介内野手(33)が決めた。1点リードの8回2死二、三塁。フルカウントからの6球目に巧みにバットを合わせる。楽天福山の真ん中低め直球を、中前へゴロで弾く。一気に2者生還。緊迫の終盤で安全圏の3点のリードへ。「3タテが一番、つらい。仕事ができて良かった」。今季初の同一カード3連敗を阻止した。長いシーズンの動向も読み、したたかに仕留めた。

 豊かな経験値を生かし、1人で試合を動かした。0-0の6回1死二塁。栗山監督が今季初めて2番打者に犠打のサインを出した。谷口が成功。ベンチの祈りが詰まった先制の機会に高いバウンドの二ゴロ。三塁走者の西川がスタートを切り、鮮やかに1点を先行した。「素晴らしい。やってくれると思っていた」。栗山監督が寄せる全幅の信頼。1人で全得点をたたき出す、今季最多タイ3打点。田中が百戦錬磨の思考、技術を凝縮して応えた。

 3年ぶりの古巣復帰は、人知れぬ苦悩がある。「感覚が良くない」。米球界へ挑戦した2年間とのギャップ。日本球界以上のスピードで、ムービング系のボールを多投する異国の投手への対応に苦心した2年間。打撃スタイルを変えたことで、いまだ本来の感覚は戻っていないという。「バットの角度とか…。なんなのかな」。ファウルとの確信がある打球が意図せず、フェアゾーンへの凡打となるなどの戸惑いがある。優勝請負人の期待を背負う求道者。胸の奥で、もがきながらも再出発ロードを歩んでいく。【高山通史】