不惑を迎えた仕事人の一打が、勝負を決めた。巨人高橋由伸外野手(40)が、決勝の適時打を放った。同点の9回1死一、三塁で登場。中日田島の直球を振り抜き、右前にはじき返した。今季から選手とともにコーチを兼任。ここぞの場面で起用される「代打の切り札」が一振りに魂を込め、3位中日との接戦を制した。

 反射的に、ベース上でほえた。一塁ベースを回った高橋由は、右手を突き上げ、その一打に込めた思いを表現した。「どんな形でも(走者を)かえして、勝ち越したかった。簡単には打てませんが、今日は打てて良かった。ホッとした」。今季初のヒーローインタビューでは、打席上での勝負師の顔とは正反対の、穏やかな表情で話した。

 力で粉砕した。同点の9回、寺内の二盗で1死二、三塁と好機を広げ、カウント3-1からの直球だった。「振り負けないように」力強く振り抜かれたスイングで、一、二塁間を破った。卓越した打撃技術もさることながら、40歳を迎えても、なお衰えぬパワー。“打撃の天才”と評される一方で、毎日欠かさず、ストレッチや体幹を続ける“不断の努力”が生んだ一打だった。

 海の向こうに、刺激をくれる同志が今もなお、一線で輝き続ける。40歳の誕生日だった4月3日。その男も、40歳を迎えた。レッドソックス上原浩治だった。かつて、チームメートとして、巨人の看板を背負った。上原が在籍時の誕生日には食事に出掛け、互いを祝福。移籍後も毎年、連絡が来たが今年はなかった。

 高橋由 毎年(連絡が)来てたのに、ついにメールも来なかった。ケガしてるんだよなぁ…。元気にしてんのかな?

 4月3日の阪神戦(東京ドーム)後、自らメールを送った。「誕生日おめでとう」。名コンビを証明するかのように、携帯電話が鳴った。「すぐに、電話が来たよ。(上原は)開幕、間に合うのかなぁ…」。会話の内容は明かさなかったが、心配そうだった。

 4月15日、ケガから復帰し、初セーブを挙げた上原の勇姿をテレビから見届けた。「すぐに、初セーブだからね。メジャーでクローザーを任されて、頑張ってる。大したもんだよ。俺も? 頑張るよ」。昨オフのイベント、久々に共演し「できるだけ長く、現役で頑張る」と誓い合った。ナゴヤドームに響き渡った「由伸」コール。勝負師は笑顔で応えた。【久保賢吾】

 ▼40歳の代打高橋由が9回に勝ち越し打。前日まで高橋由の今季代打成績は13打数4安打、打率3割8厘も、打点は押し出しによる2点だけ。代打で今季初の適時打がV打となった。高橋由のV打は、この日と同じく田島から代打で勝ち越し打を放った昨年7月6日中日戦以来で、40歳になってからは初。巨人で40代選手のV打は、投手の工藤(41歳)が04年8月17日ヤクルト戦で記録して以来、11年ぶり。巨人にとって40代野手では96年8月27日広島戦の落合(42歳)以来、40代の代打では57年10月17日広島戦の南村侑広(40歳)以来、58年ぶりのV打だった。

 ◆南村侑広(みなみむら・ゆうこう)1917年(大6)4月17日生まれ。大阪府出身。市岡中-早大。東京6大学リーグでは首位打者2度。三井信託銀行に勤務しながら、横浜金港クラブでプレー。50年に西日本入団。51年球団が消滅し巨人移籍。52、53年ベストナイン(外野手)。54年不可止(ふかし)から改名。57年引退。通算774試合、740安打、39本塁打、357打点、打率2割8分3厘。90年死去。176センチ、64キロ。右投げ右打ち。