「闘争心」と表現するのもおこがましい、打席での生きざまだった。阪神福留孝介外野手(38)の背中は殺気立っていた。2点を追う8回、五十嵐を攻めて1死満塁。初球だ。速球をすさまじいスイングで空振りする。「受けに回っても仕方ない。積極的に行こうと」。追い込まれると冷静に見極め、外角に沈む変化球にもバットは止まる。

 汗びっしょりの五十嵐に対し、涼しい顔を貫く。7球目。外角の速球を左前にはじき返した。土壇場で2者を迎え入れる同点打だ。

 「我慢してね。みんながつないでくれたチャンスだったので、自分としても後ろへつないでいこうという気持ち。俊介もよく二塁から、かえってきてくれた」

 ゴメスと並ぶチームトップの32打点。言葉で説明できない「勝負強さ」は代名詞になりつつある。

 「俺は勝負の世界に生きている男だぞ」

 福留はそう言って、にやりと笑う。PL学園でも、中日でも、阪神でも、ずっと主砲の重圧を背負ってきた男はプライベートであっても常に勝負にこだわる。例えば、複数の人間でじゃんけんになった時でも、ほとんど勝者となる。

 「みんな力んでいたから(拳を)握ってくるかなと思ってさ」

 その場にいる相手の顔色を洞察し、涼しい顔でパーを出す。一方で自分の表情は絶対に読ませない。どんなにリラックスした時間であっても、幾多の修羅場をくぐり抜けてきた男ならではの勝負勘が働く。8回の勝負-。追い込んだはずの五十嵐がカウントを追うごとに苦しい表情になっていった。敗れはしたが、7球の攻防の中に、勝負師の神髄が凝縮されていた。