秘密兵器がベールを脱ぐ。広島ドラフト2位ルーキー薮田和樹投手(22)が明日7月1日、巨人戦でプロ初登板初先発する。アマチュア時代はけがに悩まされ、岡山理大付では甲子園出場なし、亜大でも大学通算0勝と実績はない。それでも開幕から3カ月で1軍マウンドに上りつめた。最速153キロの無名右腕がリーグ3連覇中の巨人に挑み、チームの上位進出を呼ぶ。

 1軍初登板を2日後に控え、薮田はどこか吹っ切れた表情だった。ローテーション投手の練習に加わり、黒田から声をかけられても淡々としていた。ランニングメニューを繰り返し、球を握ったのは最後。2軍で続けてきた調整法を貫き、注目のデビュー戦に備えた。

 「いろいろ考えても分からないので、思い切ってやるだけ。楽しみたい。(巨人は)野球を始めたときから一番強いと思っていた。相手が巨人でも、同じ人間。ほかの投手が抑えられるのだから自分が抑えられないとは思わない」

 実績のない無名新人が、リーグ3連覇中の球界の盟主に挑む。開き直りの境地だ。亜大では右肘など故障の影響もあり、4年間で公式戦登板はリーグ戦2試合と全日本大学選手権の1試合のみ。それでも150キロ超の速球と落差のあるフォークに高い潜在能力を感じた広島から2位指名を受けた。

 即戦力としてではなく、将来性を買われた。2月の春季キャンプは2軍スタート。けがの再発に細心の注意を払いながら、プロの階段を1歩ずつ上がった。最速は153キロに達し、佐々岡2軍コーチの助言で新球カットボールも習得した。2軍8試合で4勝1敗、防御率1・70。「この登板を与えられたのも、下で育ててもらったから」。周囲の予想を上回るペースで1軍登板のチャンスを勝ち取った。

 けがで苦しんできた右腕に、ようやくスポットライトが当たる。「プロに入るまでのことは振り返らない。まずはスタートとなる1歩目を切りたい」。実績など関係ない。無欲の秘密兵器が明日、巨大戦力に挑む。【前原淳】

<薮田和樹(やぶた・かずき)アラカルト>

 ◆生まれ 1992年(平4)8月7日、広島県で。小2から野球を始める。岡山理大付では右肘の疲労骨折に苦しみ、亜大の4年間では公式戦登板わずか3試合。

 ◆癒やし パンダのぬいぐるみ。「見ていたらリラックスできる」と入寮時に持参した。

 ◆座右の銘 紫電一閃(いっせん)。インターネットで四字熟語を調べ、投球に置き換えられる「研ぎ澄まされた剣をひと振りするときに、一瞬ひらめく鋭い光」という意味を持つ言葉を選んだ。

 ◆家族 母、兄。母は元祖カープ女子。「それ行けカープ」が子守歌で1歳から旧市民球場に通った。

 ◆サイズ 188センチ、84キロ。右投げ右打ち。