巨人が強攻策を貫いて、完封目前の広島黒田からサヨナラ勝ちを収めた。8回までは黒田の前に3安打無得点。1点を追う9回裏に先頭の長野が右前打で出塁すると、原辰徳監督(56)は2番立岡に強攻策をとらせた。三振に倒れたものの、続く坂本が中前打でつなぎ阿部が同点タイムリー。最後は亀井のサヨナラ犠飛と、攻めの姿勢が奏功した。メジャー帰りのエース攻略で、勝率は5割に戻り、首位阪神に1ゲーム差と迫った。

 マウンド付近で膨れ上がった歓喜の輪の中、水しぶきが高く飛び散った。亀井を中心にお祭りのようにはしゃぎ、次から次に強く抱き合った。無敵に見えた男を沈めた興奮は冷めやらず、お立ち台で「高木には本当に申し訳なくて…、あとで100円あげます」と冗舌になるのも自然だった。空気が変わったのは、1点を追う9回だった。長野が右前打を放ち、代走・鈴木がコール。沸き上がる歓声を耳に、ベンチで打席に備える亀井は冷静に戦況の変化を感じ取った。「チョーさん(長野)が出て、尚広さんが代走。雰囲気が変わったなと」。わずか1点差。多様な攻撃パターンが想定される状況だった。

 無死一塁、打席には立岡が立った。1球ごとに戦況が目まぐるしく変わる場面。原監督の決断は、ヒッティングでの打開だった。「タイミングも合っていたし、足もある。小細工せずにね。リスクを背負いながら、戦う時期がある。私はそれを選択した」。

 塁上で仕掛けたのは、神経戦だった。マウンドからにらむ黒田に対し、ベース上の鈴木もにらみ返した。「(8年前とは)違った」と振り返ったように、偽投、けん制で盗塁の機会を防がれたが、その分、精神をすり減らせた。立岡は空振り三振に倒れたが、坂本が中前打で舞台を整えた。

 決めたのは看板2人の一打だった。阿部が同点適時打を放ち、亀井がサヨナラ犠飛。「いいところ取りして、申し訳ない」と言ったが、一心不乱に攻め続け、重圧を負わせた黒田に踏ん張る力はなかった。「クリーンアップが言葉通り、きれいに掃除してくれた」と原監督も認める攻撃で沈めた。

 劇的な勝利だったが、過程が黒田をジワリと苦しめた。先発高木勇が8回1失点の好投。圧力をかけるとともに、打者の闘志に火をつけた。原監督が「1、3番に若武者。4、5、6番に百戦錬磨の選手」を配した新打線が土壇場で底力を示した。【久保賢吾】

 ▼巨人が6月3日オリックス戦以来、今季2度目のサヨナラ勝ち。最終回にリードされていた試合を一気にひっくり返した逆転サヨナラは昨年8月26日阪神戦(2-3→4-3)以来で、今季初。

 ▼亀井は14年7月30日DeNA戦の本塁打以来通算6本目のサヨナラ打で、犠飛は初。今季は9回に18打数9安打の打率5割と、イニング別では2回と並び最高打率。今季の巨人打線はイニング別(延長回除く)では9回が最少の15得点だが、亀井は存在感を示している。