ライバルの独走阻止へ「中田の12球」で、布石を打った。日本ハム中田翔内野手(26)が「自己新記録」を達成する執念の大仕事をした。3回2死満塁で、ソフトバンク武田から先制の押し出し四球で決勝点を演出した。8年目でプロ入りしてから1打席最多の12球、約8分間の驚異の粘り。今季3度目の5連勝で貯金は最多16へ更新。首位攻防2連戦で先勝に導き、ゲーム差2・5へ詰め寄った。

 たくましい肉体を、少し折った。前のめりになり、にらみつけた。中田が精魂込め、壮絶な神経戦を制した。ソフトバンク武田との死闘は、3回2死満塁。フルカウントからの12球目。外角低めにワンバウンドした直球を、見切った。先制の押し出し四球。1点差の接戦で、決勝点を生んだ。「粘って、しっかり自分の仕事をしようと思った」。帯広は30度を超える真夏日。強風で砂ぼこりが舞う中だった。約8分間。集中力を切らさず、注ぎ続けた執念が実った。

 記録的な「中田の12球」だった。3-2となってからの9球目から速球を3球連続ファウルで、しのいだ。一塁側ベンチのボルテージが上がっていく。プロ8年目で1打席で12球は最多だった。初球から強振していくスタイルで、これまで最多は1打席で10球。前半戦最終カード、首位攻防2連戦の大一番で更新した。カーブ、スライダーを含め、会心の打席での3球種をすべてカットした。武田の手数をなくしていき、追い込み、仕留めた。

 1度は失望しかけた屈辱の思い出を、少し晴らした。宿敵のソフトバンクに4連敗中。交流戦明けの最初、6月19日からの敵地での3連戦で3連敗した。0・5差と首位で臨んだが逆転され、水をあけられた。アドレナリン全開の熱弁で、最高の激賞を受けた。

 栗山監督 何度も言うように結果で返さないといけない。結果。そうじゃないとプロ野球じゃない。その気持ちの表れが(中田)翔のあのファウルだと思う。あの姿。ああいう姿なんだ。特に4番打者がね。姿を見せてくれた。後半戦に入る前に、姿を見せないといけなかったんだ。

 全員を奮い立たせた、価値ある「中田の12球」に、反攻の芽を見た。指揮官は「姿」、「姿」、「姿」…とキーワードを繰り返し、働きに最敬礼した。

 1年に1度の帯広での大勝負で、先手を取った。栗山監督は、決戦の地への移動途中でひらめいた。乳牛たちが悠々と暮らす牧歌的な光景に、思いを巡らせた。「ウシ君(くん)とか、いいよな。やっぱり生き物がいて、自然がある。そういうのが大事なんだな、って思った」。手塩にかけて不動の4番に育てたスラッガーが一戦の意味を悟り、縁の下で支えた。代名詞の1発ではなくても「うちの戦い方。うちらしい試合」と余韻に浸った。ライバルへ2・5差へ接近した。「中田の12球」で上がった機運で、今日の球宴前の最終決戦に挑む。【高山通史】

 ▼日本ハムが13年8月17日のソフトバンク戦以来、2年ぶりに帯広で勝利を挙げた。今季、道内の地方球場では旭川、函館、帯広で試合を開催。04年の北海道移転後、この3球場の通算成績は旭川が13勝7敗、函館が8勝8敗、帯広がこの日の勝利で6勝8敗。旭川は勝率6割5分と好成績を収めている半面、帯広は唯一負け越している。