ゴジラを追い越し、世界の王に肩を並べた。西武中村剛也内野手(31)が、日本ハム大谷から記録ずくめの2打席連続弾だ。今季28号が1158試合目での300号となり、1200試合で達成の松井秀を抜いて史上8番目のスピード記録に。史上初の1000安打とのダブル達成も果たした。そして29号は通算15本目の満塁弾。王貞治の持つプロ野球記録に並んだ。

 37年ぶりの大記録を物語るように、中村が描いた放物線は約7秒をかけて右翼席に飛び込んだ。4点を追う5回1死満塁。日本ハム大谷の159キロ外角直球を打ち砕いた。一塁を回ると、無意識に右の拳を握り締めるガッツポーズ。普段は「打てて良かった」が決まり文句のはずが、「最高です! みんながつないでくれたチャンスだったので」と珍しく感情をむき出しにした。世界の王に並ぶ偉業を喜んだのではない。一時同点の好機にかけた、主砲としての責任感だった。

 前の打席でも大記録2つをひと振りで仕留めたばかり。301本目の一撃で、通算安打に占める本塁打の割合は3割飛んで1厘となった。そのうちの15本が満塁弾だ。王は868分の15本。1000安打と300本の達成時期でも78年の田淵に次ぎ2位。次々にプロ野球記録を生みだす根底には、本塁打に対する格別の考え方が存在する。

 17日の球宴初戦の夜だった。同僚の炭谷と共に、巨人阿部と初めて食事をした。セ・パを代表する主砲同士が焼き鳥を手に、ホームラン談議を交わした。阿部に「ヒットの延長がホームランという意見もある。おかわり君はどう?」と問われた。中村は即答した。

 中村 僕はいつも、どうやって大きいのを打つかを考えています。大きいのを狙った結果がヒットです。

 阿部は「俺もそうなんだよ」と静かにほほ笑んだ。通算300発を超える2人に共通する感覚だった。

 親近感を深めた似たもの同士は、その場で約束を交わした。「今度ホームランを打った時は、お互いの決めゼリフを交換しよう」。だから中村は一時同点とした29号の直後、「最高です!」と大先輩のように声を張り上げた。大谷に初の満塁弾を浴びせ、1人で5打点を挙げた。それでもチームが4連敗を喫し、喜びはない。大記録にも、試合後は「特にないです。159キロは速かった」と淡々と帰路に就いた。次こそは、勝利と1発で豪快に笑う。【松本岳志】

 ▼中村が4回に大谷から今季28号を放って史上281人目の通算1000安打と史上41人目の通算300本塁打を達成した。初安打は03年9月28日の日本ハム28回戦でミラバル、初本塁打は04年7月24日の近鉄18回戦で山村から記録。出場1158試合目での300本塁打到達は8位のスピードとなり、300本塁打目の安打数は78年田淵(阪神)の951本に次いで2番目に少ない。過去に区切りの安打と本塁打を同じ試合で達成は56年8月23日西沢(中日)80年6月26日富田(日本ハム)00年4月8日大豊(阪神)といたが、同じ打席では史上初めてだ。

 ▼中村が5回に今季3本目、通算15本目の満塁本塁打を放って王(巨人)の持つ通算満塁本塁打のプロ野球記録に並んだ。中村の満塁での成績は116打数32安打の打率2割7分6厘で、9四死球、8犠飛。王は満塁で通算213打席(打率は3割7厘)立ったが、中村は王より少ない133打席で15本目を放った。中村は10年にも満塁弾を3本打っており、シーズン3本以上を2度は江藤(ロッテ)中村紀(DeNA)に次いで3人目。