首位の座も、マウンドも譲らなかった。阪神藤浪晋太郎投手(21)が自身最多152球の8勝目で、チームを3連勝と貯金生活に導いた。157キロを計測した直球に加え、変化球も巧みに操り12奪三振。後半戦の初マウンドを、プロ2度目の完封勝利で飾った。これが球宴で、投手史上最年少のMVPを獲得した右腕の実力だ。

 お立ち台からの景色は真っ黄色だった。「ウルトラ気持ちいいです」。ウル虎の夏企画と重なった後半戦初マウンド。自身最多の152球を投げきり、スコアボードに0を並べた。

 「9回は聞かれていないです。聞かれても『行く』としか言えないですし、送り出してもらえたのは信用してもらえたということだと思うので、良かったと思います」

 8回を終えて133球。それでも首脳陣は迷いなく藤浪の続投を決断。9回にも衰えなしの藤浪がいた。最終回の最速が153キロ。1死一、二塁で代打後藤を見逃し三振に仕留めた外角直球。最後の1球も152キロで代打宮崎を右飛。マウンド上でガッツポーズだ。チームトップの8勝目。「イニングを投げたい、投げたいと言って、結果で示すことができて良かった」。首位の座とマウンドを守り、充実感に満ちていた。

 試合を任される力と技術を随所にのぞかせた。ギアを上げたのはミスの直後。3回無死一塁からバント処理を失敗した。「くだらないミスをして、何としても抑えないと」。まず軸に選んだのは直球。1死二、三塁で石川を直球で空振り三振。続く松本へはフルカウントから157キロを3連発。結果は四球となったが、全8球真っすぐ勝負した。

 変化球も抜群だった。6回無死二塁で4番筒香。外角ボールゾーンから入ってくるカットボールで三ゴロに。走者を進めさせることもなく、ピンチの芽をつみ取った。3回の危機もカットボールで梶谷を二ゴロ。緩急自在。3年目にして着実に勝つ術を身につけてきたのには理由がある。

 登板2日前に入るブルペン。肩が温まってくると指示が飛ぶ。「カウント0-2、フォーク」。言われるのは状況と投げる球種のみ。わざとワンバウンドを投げてもいい。打者を抑えるために何をすべきか。藤浪がどのコース、軌道で球を投げるかをチョイス。甘く入ったり、高めに浮けば「何してんねん!」と厳しい言葉が飛ぶ。勝負の駆け引きすら託されるだけに、勝率5割で迎えた一戦で3戦3勝と負けなし。培った勝負強さはピカイチだ。

 次回は中6日で31日ヤクルト戦(甲子園)。「肩、肘をケアして次の投球に備えたい」。夏場にリリーフ陣を休ませる勝利でチームは3連勝。21歳は、エースへの階段を上っている。【宮崎えり子】

 ▼藤浪が今季2度目の完封勝利。また完投は5度目で、前田(広島)、大野(中日)と並びセ・リーグ最多。この日藤浪は12奪三振で今季の1試合2桁奪三振は6度目で、昨季の5度を早くも抜いた。シーズン奪三振数132は、両リーグ最多。

 ▼この日投じた152球は藤浪のプロ入り最多で、阪神の投手の1試合150球以上は、13年9月17日広島戦のメッセンジャー150球以来。日本人では、10年7月17日ヤクルト戦の久保155球以来、5シーズンぶりとなった。