巨人が“準備力”で首位に返り咲いた。2-1の7回無死一塁で、代走鈴木尚広外野手(37)が左翼手デニングのチャージが遅いと一気に三塁へ。直後の左前打で生還し、流れを引き込んだ。福島県営あづま球場の外野は、太めで耐久性に優れ、打球が減速する「高麗芝」を採用。打撃練習中に行った外野ノックで、日本では希少な長さ2センチの芝での打球の転がり具合を入念にチェックしていた。地方球場での試合でも準備に抜かりなし。首位攻防第1ラウンドで、原ジャイアンツの強さが際立った。

 遅い。代走鈴木が、一瞬で見極めた。7回無死一塁。村田の左前打の処理にデニングがゆっくり向かうのを目視。「野手の動き、打球の方向を見て、打った瞬間から三塁に行けると思った」と加速度をつけて二塁を蹴った。外野で弾んだ打球はグッと減速。楽々と三塁に到達すると、続く吉川の左前打で試合を決定づける生還を果たした。走塁のスペシャリストは「やっぱり打球が死にますね」としてやったりの表情だった。

 試合前、すでに勝負は決していた。外野に足を踏み入れた鈴木は「長いですね」とピョンピョン跳ねた。福島あづま球場の外野は、長くて打球の勢いが弱まるという「高麗芝」。メジャー球場で多く見られる2センチに成長していた。柔らかな感触を足裏で確かめながら、「チャージが緩いとダメですね。考えてやらないと」と言い、アップに入った。

 チーム単位でも「高麗芝攻略」のミッションは遂行されていた。打撃練習中、打撃ケージの横から、大西外野守備走塁コーチが外野ノックを始めた。ゴロの球速に変化をつけ、ドライブをかけたポテンヒットなど約30分間、さまざまな打球を捕球させた。

 大西コーチは「年に1回の球場だから何が起こるか分からない。チェックしておかないと」。4回1死一、二塁では、一塁走者長野もゴロが緩むのを承知のうえで、村田の中前適時打で一気に三進した。ヤクルトもミーティングで確認はしていた。ジャイアンツは練習から「足裏」で感覚をつかみ「高麗芝について」という夏の自由研究を、全員でしっかり終わらせていた。ちょっとしたことかもしれないが、勝敗を分ける大きな差となった。

 ビジターながら当意即妙な対応で、首位攻防第1ラウンドを制した。夏の福島の猛暑にもかかわらず、練習から体も頭も汗をかいて芝攻略に取り組んだ成果で、トップの座に返り咲いた。原監督は「地の利、という部分でうちが味方にできた」と言った。準備、研究、執念。どれも欠けることがない原巨人は、強い。【浜本卓也】

 ▼巨人は5月26日西武戦(郡山)から地方球場で4連勝。今季は地方で通算7勝1敗と強く、勝率は8割7分5厘。特にマイコラスは地方球場で3戦3勝、防御率は0・43と抜群だ。