女房役のサインに、ロッテ石川歩投手(27)は「いいね!」と思った。5-1の5回2死走者なし。楽天ペーニャを3球で追い込み、内角へシンカーを投じた。全く反応を許さず、見逃し三振。「吉田がうまくサインを出してくれた。余裕があったので。振ってくると思ったんですけどね」と、ほくそ笑んだ。試合開始時からの雨でマウンドはぐちゃぐちゃ。リードしながらノーゲームは最悪だ。バッテリーの息が合った1球で試合を成立させた。

 その1球が、2年目の進歩を示している。利き腕と同じ方向へ落ちるシンカー。新人だった昨季は、右打者にも左打者にも、ほとんど外角へ投げるだけだった。「ちょっとずつ内にも投げたい。『シンカーは外』というイメージがあると思うので」。打者の裏をかくことで、投球の幅を広げている。もっとも、この日はシンカーよりもスライダーが良かった。「前回の楽天戦(8月12日、8回1失点完投で負け投手)ほど、シンカーが曲がらなかったので」と柔軟に対応し、7回6安打1失点(自責0)にまとめた。

 新人から2年連続2ケタ10勝に達した。荒巻以来64年ぶり球団2人目の快挙だが「負けが先行している。うれしいですけど」と、手放しでは喜ばなかった。それでも、チームの連敗を3で止めた。伊東監督には「涌井に次ぐ投手。残り全部勝つぐらい投げて欲しい」とハッパをかけられた。伝え聞くと「毎試合、勝つつもりです。負けられない」と即答した。逆転のCS進出へ、フル回転の準備はできている。【古川真弥】

 ▼ロッテ2年目の石川が昨年の10勝に続く2桁勝利。入団1年目に2桁勝利を挙げたロッテの投手は石川まで4人いたが、2年目も10勝以上は毎日時代の51年荒巻(1年目26勝→2年目10勝)に次いで64年ぶり2人目。

 ◆荒巻淳(あらまき・あつし)1926年(大15)11月16日、大分県生まれ。大分商-大分経専(現大分大)を経て別府星野組では49年都市対抗優勝。「火の玉投手」と呼ばれ、毎日に入団。1年目の50年に26勝でリーグVと日本一。最多勝、最優秀防御率(2・06)でパ・リーグ初代新人王。通算173勝107敗。現役時代は174センチ、61キロ、左投げ左打ち。71年死去。85年殿堂入り。