4時間36分の死闘を乗り切った虎が、首位に返り咲いた。広島と延長12回を戦い、ドロー。最後は野手を使い切り、ベンチは投手の島本浩也(22)を代走起用する総力戦だった。救援陣も奮闘。最後は本塁打性の打球が三塁打と判定されるなど、野球の神様も振り向かせた? ヤクルトと並んでの同率首位。今日13日、広島前田を攻略し、今度こそ本当のVスパートだ。

 仰天のタクトに勝利への執念が表れていた。延長12回2死。ゴメスが右前へ運ぶと、一塁側ベンチが動いた。代打田上への2球目に入る直前だ。和田豊監督(53)が飛び出す。島本がヘルメットをかぶり、一塁に駆けていく。投手の代走起用。指揮官は「1点を取ればいいんだから。あそこは。少しでも速い方を行かせた」と言う。大接戦で、控えの野手を全員使い切っていた。大胆な用兵で、少しでも勝機を見いだそうとした。

 足が速くないゴメスよりも、俊足ぶりに定評がある島本を抜てきした。若き左腕も「急に言われました。1球目を投げる前にちょっと言われて(2球目の直前に)すぐにということで」とビックリした表情。田上が凡退し、総力戦で引き分けに持ち込んだ。前日11日に首位陥落したばかりだが、この日、名古屋でヤクルトが敗れたため、1日で同率首位に返り咲いた。敗戦なら巨人に0・5ゲーム差に迫られる、3位転落の危機を逃れた。指揮官は言う。

 「2番手以降、しっかり頑張ってくれた。その間に何とか点を取りたかった」

 試合の流れは劣勢だったが必死に防戦した。8回以降は福原、呉昇桓ら必勝パターンを投入。絶体絶命の危機は延長12回に訪れた。安藤が田中に中越え三塁打を浴び、2死後、代打梵に死球…。丸を迎えて迷わず継投。左腕の高宮をぶつけた。徹底したスライダー攻めで二ゴロに封じる。胸突き八丁の激闘をしのいだ。

 まだ勝負のツキは阪神にも向いている。延長12回、田中の大飛球は、審判団によるビデオ判定の末に三塁打と判断された。本塁打性の弾道だったが、致命的な1点を奪われずにすんだ。勝てなかった。でも、負けなかった。中盤以降は何度も得点圏に走者を置き、延長11回には1死一、二塁のサヨナラ機も逃していた。

 和田監督は「お互いそうだけど何とか勝ち越したかった」と渋い表情で振り返る。10日の巨人戦で代打の切り札・狩野が右手を骨折離脱。この日は二塁スタメンを張る上本が負傷で2軍降格…。いまは故障者続出の苦境だ。そんな優勝争いの正念場で、何とか踏みとどまった。今日13日は難敵前田に立ち向かう。連敗脱出、そして首位固めするためにもフルパワーで白星を奪いにいく。【酒井俊作】

<過去の投手珍起用>

 ▼11年9月23日巨人戦(甲子園)では9回裏2死一、二塁で、中継ぎ右腕の西村憲が代走(二塁走者桧山と交代)起用された。そこまで16野手を使い切り、真弓監督は西村をブルペンから呼んだ。試合は4-4で規定により9回引き分け。

 ▼西村は前年10年9月9日中日戦(甲子園)では延長11回、12回に外野を守った。9回裏に控え野手がいなくなり、一塁手のブラゼルが10回裏の攻撃中に暴言で退場となった。西村は相手の右打者、左打者に応じて右翼と左翼を交互に守った。守備機会はなし。

 ▼投手の代走では、96年7月28日巨人戦(甲子園)で延長15回1死一、二塁で島田哲也が二塁走者の木戸に代わって出場。久慈の中前打でサヨナラのホームインをしている。