ロッテが王者の虚を突き、白星をつかんだ。3-3の6回2死三塁で、荻野貴司外野手(29)が決勝のバント安打を決めた。ソフトバンク摂津の初球を絶妙に転がした。直前には、田村龍弘捕手(21)のスクイズで同点とした。小技を重ね、前日に優勝を決めた相手に競り勝った。試合のなかった3位西武に1ゲーム差と迫り、逆転CSへ追い上げる。

 打席に向かう前から荻野は冷静だった。「ファーストもセカンドも少し後ろ。うまくいけば決まる」。6回2死三塁。ソフトバンクの一塁明石と二塁本多の守備位置を確認していた。摂津が初球のテークバックを取った瞬間、バントの構え。外角高め直球を摂津と明石の間に押しこみ、明石に捕らせた。本多がベースカバーに入ったが、先に一塁を駆け抜けた。

 伏線がある。前打者の田村が1死二、三塁で同点スクイズを一塁線に転がした。その直後、再び一塁方向へ。相手にすれば、まさかの“連続攻撃”だった。荻野は「自分の感覚として初球でした。警戒もされていないかなと。本当は二塁に捕らせるぐらいが良かったけど、一塁の反応が遅れてましたね」と、狙い的中だった。

 小技で同点と勝ち越しの2得点をもぎ取った。選手の意識を引き出したのは、他ならぬ伊東監督だ。日本ハムに力負けした16日、QVCマリンの食堂に選手を集めた。荻野、田村、加藤、鈴木ら、打線の脇を固めるメンバーに「もう1度自分の特徴を頭に入れて、相手が何を嫌がってくるのか考えろ」とハッパを掛けた。チーム本塁打数は、リーグ5位の80本。同1位のソフトバンク(130本)のような長打攻勢は望めない。ならば、足で、小技で、切り崩す。指揮官は「早速、持ち味を出してくれた」とねぎらった。

 もっとも、得点圏でなかなか1本が出なかった。「欲を言えば、5、6点は取れている」と付け足した。3位西武と1ゲーム差。反省をつなぎ、その差を埋める。【古川真弥】