タテジマ一筋で19年間、頑張ってきた男に、甲子園の女神は優しかった。阪神がCS進出に向け執念のサヨナラ勝ち。同点の9回無死一、三塁で、今季限りの引退を表明した関本賢太郎内野手(37)が代打で登場。すると捕逸で、江越がサヨナラのホームイン。CS決定の目安となるクリンチナンバーを2とした。関本は近日中に引退を正式に発表する。

 野球の神様は劇的なフィナーレを用意していた。3-3で迎えた9回。この日、今季限りでの引退を表明した関本が、“顔”でサヨナラ捕逸勝ちを呼び込んだ。三上の真っすぐがバックネット前に転がり、三塁走者江越が生還すると、背番号3ももみくちゃだ。

 関本 オレがスーパースターやったらこういうところで打つんやろけど、スーパースターじゃないからこういう結果になった。オレらしくていいわ。

 会心のジョークがはじけるほど、阪神には“笑撃の展開”になった。先頭江越が空振り三振かと思いきや、暴投の振り逃げ成功で無死一塁。続く俊介の投前バントを一塁ロペスが落球して無死一、三塁。相手の信じられないプレーが2つも飛び出し、関本のヒーローがお膳立てされた。

 関本 正直、打てる気は全然せんかった。ラッキー。必死のパッチです!

 得意の決めセリフも決まったロッカールームへの通路。その7時間前、同じ場所で今季限りでバットを置く重大決意を明かしていた。「昨日(28日)決めました。球団にも伝えました」。すっきりしているのかの問いに「そうですね。(近日中に会見で)また話します」と吹っ切れたような笑顔で練習に向かった。

 大型内野手の期待を受け、天理から96年ドラフト2位で入団。同3位の浜中治(現2軍打撃コーチ)と当時の岡田彰布2軍監督らに鍛えられ、勝負強い打撃と堅実な内野守備に磨きをかけて1軍戦力にのし上がった。タテジマ一筋19年で、近年は「代打の神様」として大活躍。何度もチームに歓喜をもたらせてきた。

 だが頑丈な肉体を誇った男も、今季はケガに泣かされ続けた。6月初旬に左脇腹を痛めて離脱。1カ月で戦線復帰も8月には右背筋を痛め、2度目の抹消となった。今月8日の1軍復帰後は、10打数6安打3打点と再び勝負強さを発揮。だが長年ムチ打った肉体は人知れず限界に達し、潔い引き際の決断に至った。

 試合前練習の合間、和田監督ら1軍首脳陣に引退を報告。それぞれ握手を交わし、ねぎらわれた。「握手ぐらいするやんか」と笑う。一時代を築いた男の幕引きに寂しさが漂ったが、そんなノスタルジーを打ち消したのも関本だった。

 関本 CS目指して頑張ります。それに向けて集中してやっていくだけです。

 ラストを優勝で飾ることはできなかった。だがこの日の勝利でCSクリンチは2となり、10月1日にも3年連続の進出が決まる。在籍中まだ果たしていない日本一の夢もある。泥くさく有終を目指す。【松井清員】

 ◆関本賢太郎(せきもと・けんたろう)1978年(昭53)8月26日、奈良県生まれ。天理から96年ドラフト2位で阪神入団。内野のユーティリティープレーヤーとして頭角を現し、08、09年には規定打席に到達。近年は代打出場が増え、昨季は決勝打が6度と勝負強さを発揮した。186センチ96キロ。右投げ右打ち。