球界の荒波を生き抜いた男から、近未来の大砲へ-。巨人村田修一内野手(35)と岡本和真内野手(19)は正三塁手を競うライバルであり、師弟のようでもある。20日にグアム自主トレを打ち上げ、キャンプインが近づく中、胸襟を開いて語り合った。村田は岡本の打力を認め、そう遠くない日に禅譲する覚悟を告白。自信なさげの岡本だったが、先輩の思いを聞き、継承の決意を強くした。

 岡本が、そわそわしていた。グアムから帰国前、中学時代からの憧れだった村田と、じっくり話す機会を得た。約2週間の共同生活を終え、自分がどう映っているのか。定位置争いを勝ち抜く武器を聞かれ「強いて挙げるならバッティング」とトーンは弱めた。

 岡本 勝てるわけがないんで…。長打はアピールしたいけど(村田より)全然下だと思うので…全然…。

 すかさずツッコミが入った。

 村田 いつも声が小さいよな。サードはホットコーナー。声の大きさも発言も大げさぐらいの方がいい。自信を持てれば、しゃべれる。俺が直す。

 目の前の後輩は村田が築いた城を脅かす存在だ。だが一緒に自主トレをし、弱点克服まで指南した。

 村田 年齢が近いなら話は変わってくるけど16歳も違う。経験値と守備力は負けない。でもいつかは抜かれる。巨人、球界を背負う選手にならないと困る。「あとは任せた」と言える受け継ぎ方をしたい。2、3年後にも、そういう形に。

 近未来に「巨人の三塁」を託せると、ひそかに期待していた。長距離砲の資質を認める。だからこそ、負けない武器を「打撃」とは言わなかった。横浜時代(現DeNA)の弟分で現在は侍ジャパンの4番に成長した筒香と重ねていた。

 村田 最初に打撃を見た時、筒香と同じ柔らかさがあった。バット、体の使い方、タイミングを抜かれた時…。筒香も後に硬くなって悩んだけど、また柔らかくなった。和真も1度通る道かな。壁にぶち当たらないといい選手になれない。

 後継者として認めてくれている-。村田の本心を、岡本は初めて知った。熱を帯びた話を聞くうちに、心が奮い立った。秘めていた思いをはっきり伝えた。

 岡本 春季キャンプは1軍スタートですが、それで満足したら意味がない。オープン戦でも1軍に残ること。そこからです。でも後継者は、修さんの後は、僕しかいないです。他のポジションに絶対に回されたくない。必死でやります。

 村田 和真の打撃は長所。まず本塁打を打てるとアピールするのが一番。レギュラーを張る選手は何かの長所が抜けていて、後から全体のレベルを上げる。昔の俺もそうだった。

 岡本 中学生の時、ショートかセカンドをしろって言われた。でもサード以外、絶対やらなかった。サードと言えば修さんだった。打てて守れるし、本塁打もすごく格好良かった。僕は去年、たまたまポーンと本塁打を打っちゃって…。

 村田 結果が出たのは、何か持っているということ。理想は試合に一緒に出て打つことだけど、サードを2人で守れない。出た方が打てばチームは勝てる。調子が落ちたら入れ替わる。チームにとって、そのサイクルは必要だと思う。

 簡単に禅譲する気はない。高い壁になる。開幕スタメンは自分だと断言した。

 村田 俺が村田だ!(笑い)成長してほしいけどまだ抜かせない。必死こいて練習する。

 岡本も開幕の三塁手は村田と予想した。お世辞や遠慮ではない。今やるべきことが明確になったからこそ、背伸びは必要なかった。

 岡本 1軍と2軍と行き来していたら終わってしまう。必死に食らいつく。争える立場になるように。僕が試合に出た時に、修さんが安心して見られるようにならないと、目をかけてもらった意味がない。

 追う者と追われる者。1つの枠を争う2人に共闘はない。だが来るべき日に備え、村田は覚悟を伝え、岡本も不安な思いを捨て去り、決意を固めた。1日でも遅い禅譲と、1日でも早い継承が巨人を強くする。【取材・構成=浜本卓也】